虎番疾風録

両球団〝完全否定〟ほんとかなぁ 其の参108

虎番疾風録 其の参107

『掛布放出』報道の波紋はとてつもなく大きかった。阪神、南海の両球団事務所はもちろん、サンケイスポーツの編集局にも、激怒した読者から抗議の電話が殺到した。

「平本記者、出してくれ」

「ウチがトレード記事書いたんじゃないですよ」

「違うがな、平本さんに掛布を出すようなアホなことするな―と阪神首脳に伝えてほしいんや」

両球団はその日のうちに「トレード」を真っ向から否定した。掛布の獲得について「考える」とS紙にコメントが載った南海の川勝オーナーはこう弁明した。

「実はきのう、東京の宿舎へS紙の記者が訪ねてきて“阪神は掛布を出すが、どうですか?”と言ってきた。わたしは全然聞いていなかったし、“聞いとらんが、本当だったら考えるよ”と答えたんだ。それが…。迷惑千万な話や」

そして大阪・梅田の阪神球団事務所では小津球団社長が声を荒らげた。

「トレード話を球団の責任者のわたしが知らんのだから、まったくおかしな話だ。おたくらが自由に書くのをとやかくは言えんが、迷惑な話だ」

どこまでが事実なのか…。江夏や田淵を簡単に放出した阪神ならやりかねない? S紙に載ったということは、情報の出所は南海ではないのか? 疑惑が疑惑を呼んだ。

「ほんまに何もない! 誤報や! これまで2人のことで阪神と交渉したことはない。小津社長が130%ないと言った? ならウチは150%ないわ!」。南海の永井広報調査部長もきっぱりと疑惑を否定した。

1年生の筆者にはまだ“裏事情”は分からなかった。そこで平本先輩の状況分析に頼った。

「頭の『放出』の見出しを見たときは“ひょっとして”と一瞬思った。阪神の考えそうなことや。でも、交換相手が門田とあって“これはない”と思った」

――なんで門田なら「ない」と

「門田はよく打つが、走れないし守備も不安。DH制のないセ・リーグでは魅力が薄い。それでなくとも、阪神は故障者が多いのに、これ以上、故障者を抱えてどうなる」

――なるほど

「打つだけの選手なら、2年前、田淵を西武に出す必要はなかったやろ。それに阪神が儲(もう)からんトレードをするはずがない。まぁ、中心的な存在の生え抜き選手を大事にしないチームは永遠に強うならん」。さすが、師匠。いつもながら明解な分析だった。(敬称略)

虎番疾風録 其の参109

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