「デザイン経営」が下請け企業を変える 目指すは世界市場

 従来、デザイナーが行ってきた、利用者の視点に立って社会のニーズを見極め、新しい価値観を生み出す作業を経営にも生かそうという宣言だ。経産省は、デザイン経営について、デザインを企業戦略上の中心に置くことや、デザイン責任者の経営陣への参加を定義づけている。

 八尾市は、市内のものづくり企業がデザイン経営を取り入れることで、事業継続や競争力強化を図れるとして、ヤオヤ・プロジェクトの基本概念に取り入れている。

割れないコップ

 家電製品などに幅広く活用されるゴム部品の製造などを手掛ける「錦城護謨(きんじょうごむ)」(八尾市跡部北の町)は、特殊なシリコーンゴム製のコップを開発中だ。割れないメリットを生かしながら、色や細工にもこだわった高級感漂う質感の商品を目指している。

 同社では生産部の吉年(よどし)正人さん(47)ら30代から40代の中堅社員が、ヤオヤ・プロジェクトへの参加を希望した。協力をあおぐのは実力派デザイナーの小林新也さん(32)。デザイン会社「シーラカンス食堂」(兵庫県小野市)の代表を務め、「播州そろばん」や「播州刃物」などの地域産業を斬新なデザインを通じて、売り出すことに成功した手腕に期待を寄せる。

 普段、下請け業者は発注元の仕様に技術力で応えてものづくりを行っている。ただ、社員には作っている製品の用途すら知らされないこともある。同社では「自分たちの仕事が何に役立っているのかいまいち分からない」と疑問を抱き、モチベーションを下げてしまう若手もいるという。

 土木事業部の水田竜平さん(40)は「ものづくりは本来、おもしろいもの。それを仕事にしている会社の魅力を、ヤオヤ・プロジェクト参加を通じて、若手にも伝えたい」と語る。

 自社製品づくりを通じて、販路拡大を狙うだけでなく、ものづくりを担う一人一人に自社の技術力や製品に誇りを持ってもらいたい。ヤオヤ・プロジェクトの狙いはそこにある。

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【プロフィル】北村博子(きたむら・ひろこ) 大阪府内の街だね取材を担当。錦城護謨の工場内を取材しながら、子供のころの社会見学の、遠い記憶がよみがえってきた。当時、製鉄所や冷蔵庫工場を訪れたがゴム工場は初めて。小学生気分に戻ってワクワクした。ものづくりの現場には驚きがあふれている。

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