朝晴れエッセー

台所の医者・1月21日

年齢的にも、そろそろ無理が利かなくなってきた。若い頃よりも風邪をひきやすくなったが、しんどいときには母が台所に立つ姿が心のアルバムから引っ張り出され、少し元気を取り戻す。

子供の頃の風邪薬は、大根の蜂蜜(はちみつ)漬けだった。

家には大きな蜂蜜の瓶が常備してあり、私が風邪をひくと、母は決まって台所に立って大根を短冊の形にサクサクと切り始める。それを蜂蜜に漬け込むと、ちょうどよい加減のさらっとしたシロップになるのだ。

子供の敏感な粘膜には甘ったるくて喉が焼けそうな蜂蜜だが、大根のエキスとタッグを組むと実に飲みやすかった。

母の言葉は絶対だった。

「子供は回復が早い」と言われたらその気になり、具合がよくなっているような気がしてくるのだ。そんな言霊がたっぷりと入っているシロップを口に含むと、普段は好んでもいない大根と蜂蜜がおいしく感じられて、お代わりをしていた。魔法のシロップは母を台所の医者へと仕立て上げた。

そんなことを思い出しながら、生協さんのカタログの蜂蜜の欄に印をつけた。

よし、あとは大根かぁと、冷蔵庫にある野菜を確認する。憂いがないに越したことはないが、あると安心する魔法のシロップの元である。

学校給食の主任調理員まで勤め上げた母の口癖であった「医食同源」が、ひしひしと身に染みる。今度は私が魔法のシロップを調合する番だなと、すっかり痩せ細った母の背中を見て思うのであった。

赤樫順子 45 愛媛県宇和島市