さすが日本だ!。2020年東京五輪・パラリンピックで各国・地域選手団の生活拠点となる選手村(東京都中央区晴海)の宿泊棟が昨年12月に完成。大会組織委員会は9日、その概要を発表した。東京湾の景色が望める居住スペースは、ホテルのように清潔で美しい仕上がりという。
選手村は、選手が最高のパフォーマンスを発揮するために準備する場所で、選手、役員以外は入れない。
1996年アトランタ五輪に競泳代表で出場した私も、当時の選手村のことはよく覚えている。開会式当日、私たち競泳陣は翌日からの試合に備えて、まさに選手村の宿舎にいた。同部屋のチームメート6人がリビングに集まり、ストレッチをしながらテレビ中継を見ていた。
各国の入場行進が始まると、「ジャパンだ、ジャパン」と言いながら、テレビに合わせて狭い部屋を行進した。興奮しすぎてしまったのか、午前2時過ぎまで寝付けなかったことを思い出す。選手村には、日本製機器が並ぶゲームセンターやボウリング場、サウナまであって驚いたものだ。
前回の2016年リオデジャネイロ五輪の選手村はトラブル続きだった。オープン早々、選手団から不満が噴出した宿泊棟は、電気配線がむき出しで、トイレは流れず、シャワーから泥水が流れる部屋も…。私たち報道陣が宿泊したメディア棟も同じ状況で、選手らのストレスを察しながらあぜんとしたことを思い出す。
東京五輪・パラの大会組織委では、そんなリオの教訓もあって建設スケジュールの調整に万全を期したといい、宿泊棟は昨夏から順次完成し、現時点で全室「きれいな水が出る」ことを確認済みという。
選手村の敷地は約44ヘクタール。東京ドーム約8・5個分に相当する広さで、14~18階建ての宿泊棟が21棟並ぶ。各部屋に用意されるのは、寝具とテーブルと椅子、クローゼットのみ。特にフレームが段ボール製のベッドは、軽くて容易に動かせるため、寝室をミーティングルームに変えるなど、選手たちで部屋のレイアウトを変更できることも特徴の一つだ。
一方で、キッチン(台所)と冷蔵庫はない。食事は24時間オープンのメインダイニングでとることが原則。自室調理をNGとしたのは食中毒を防ぐ目的があり、衛生面も保たれる。「ホテルの部屋をイメージしている」と担当者。ちなみに冷蔵庫とテレビは有料で貸し出すという。
過剰なサービスはせず、本当に必要なサービスを徹底して提供することが、東京流のおもてなしということだろう。
また、選手村には、美容室や診療所、トレーニングジムなどが完備されるという。宿泊棟の外廊下は車いす同士がすれ違えるよう、幅を通常より30センチ程度広くするなど、バリアフリーも意識されたつくりで、選手たちを迎える。
アスリートの体調を管理し、心と体を休める場所となる選手村。東京では、全出場選手が万全の状態でスタート台に立てるようにという作り手の思いが所々で感じられるはずだ。(運動部 西沢綾里)