姉妹で臨む大舞台が幕を開ける。東京五輪のレスリング女子57キロ級代表、川井梨紗子(りさこ)(25)=ジャパンビバレッジ=と、62キロ級代表で妹の友香子(ゆかこ)(22)=至学館大=は昨年9月、カザフスタンで開かれた世界選手権でともにメダルを手にし、五輪代表の座を射止めた。その瞬間、2人は「本当に夢がかなったんだ」と3年前に交わした誓いを思い出していた。
2018年は梨紗子にとって「苦しい一年」だった。63キロ級で優勝したリオデジャネイロ五輪後、東京五輪に向けて本来の階級である57キロ級に戻したが、五輪5連覇を目指す伊調馨(35)=ALSOK=が立ちはだかった。伊調へのパワーハラスメント問題が発覚した日本レスリング協会の栄和人・前強化本部長の元教え子だったこともあり、ネットには「伊調の5連覇を潰しにきた」と無責任な言葉が並んだ。重圧に感じ、五輪代表選考を兼ねた一昨年12月の全日本選手権で伊調に敗れ、「もう無理。辞めたい」と母の初江さんに泣きながら現役引退を訴えたこともある。
リオ五輪当時、肩をけがしていた友香子は梨紗子の練習パートナーとして帯同。帰国後のメダル報告会で新潟県十日町市の合宿所を訪れた際、梨紗子は友香子に言った。「63キロ級で優勝するなんて想像もしていなかった。だから4年間努力すれば、友香子も東京五輪に出られるかもしれない。2人で金メダルを取れたら最高だよ」。友香子は「梨紗子と一緒に出たい」と強く思った。だからこそ「私が頑張る姿を見せることが梨紗子が立ち直るきっかけになる」と普段通りに練習することで姉を勇気づけた。梨紗子は昨年6月の全日本選抜選手権と世界選手権代表決定プレーオフで伊調に2連勝。世界選手権では2人で五輪代表を決め、抱擁した。
梨紗子は「(伊調)馨さんと(吉田)沙保里(さおり)さんを足して2で割った選手が理想」と語る。持ち味の高速タックルに加え、伊調の代名詞である堅守を強化しようと模索している。友香子は「パワーが強い62キロ級の外国人選手にいかにパワー負けしないか」と強化に励む。東京五輪は女子レスリングが正式種目となった2004年アテネ五輪から3連覇した吉田沙保里さんと伊調がいない初めての大会となる。レスリング女子チームの主将を務める梨紗子は「沙保里さんたちを目指してやっていきたい。主将だけど私も追いかけているものはある」。友香子は初の五輪へ「4年前にけがをした時、支えてくれた家族に恩返しがしたい」と誓う。姉妹の夢とそれぞれの思いを背負い、表彰台の頂点を目指す。(岡野祐己)