今年は干支の「亥」のように、九州企業が将来の難局に備え、猪突(ちょとつ)猛進する姿が目立った。背景には長期的な人口減がある。
10月、JR九州と西日本鉄道のライバル同士が本業の輸送サービスで連携を発表したのも、将来的な乗客減などに対応するためということが大きい。JR九州は将来の運転士不足を見据え、より低コストの自動運転技術の開発にも乗り出した。日本一のバス会社といわれる西鉄も、需要分析に人工知能(AI)を活用したより効率的なバス運行システムの確立を急ぐ。
福岡の都市再開発でも年の瀬に大きな山が動いた。
12月、西日本シティ銀行(NCB)はJR博多駅前にある本店ビル(福岡市博多区)の建て替えを発表した。銀行法は金融機関の不動産業参入を禁じる。しかし、マイナス金利が長期化する中、保有不動産からの新たな収入は金融サービスを維持する上で助けとなる。NCBは本店ビルの建て替えに際し、地元デベロッパーの福岡地所と特定目的会社を設立し、福岡の玄関口、博多駅前の活性化と収益強化を図る。
九州電力は、世界的な逆風が吹く石炭の活用を進めている。12月20日には最新鋭の松浦火力発電所2号機(長崎県松浦市)が営業運転を始め、同25日には日本郵船、商船三井と連携し、重油と比べ、環境に低負荷な液化天然ガス(LNG)を燃料とした大型石炭運搬専用船の新造に基本合意した。資源に乏しい日本が、安定的にエネルギーを確保するには、原子力や再生可能エネルギー、LNGや石炭を最適に組み合わせることが重要だ。
西部ガスも同24日、令和3年4月をめどに持ち株会社体制に移行する計画を発表した。自由化によって競争環境が厳しくなる中、より効率的な組織運営を図るとともに、本業のガス以外の柱づくりを急ぐ。
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4年に一度じゃない。一生に一度だ-。
全国で9月20日から11月2日まで熱戦が繰り広げられたラグビーワールドカップ(W杯)は、キャッチコピー通り国内外に一生ものの感動をもたらした。立役者の日本代表には、九州にゆかりが深い選手や関係者が多い。
まず挙げるべきは、松島幸太朗選手と並んでツイン・フェラーリと称された福岡県古賀市出身の福岡堅樹選手だろう。高校時代は福岡高校でプレーした。
開幕試合のロシア戦に勝利し、迎えた9月28日の2試合目。強豪アイルランドにリードされて迎えた後半18分、福岡選手の逆転トライが空気を変えた。今大会通算4トライを挙げた快足ウイングは大会公式サイトで「別格だった豪華な7人」に選ばれ、にわかファンをも魅了した。
スクラムの要、プロップとして全5試合に出場した韓国・ソウル出身の具智元選手の活躍は印象に残った。アジア最強プロップとして恐れられた元韓国代表の東春氏を父に持ち、大分県佐伯市の日本文理大付属高で学んだ具選手は12月に日本国籍を取得した。
ヘッドコーチのジェイミー・ジョセフ氏は現役時代に九州でプレーしていた。平成7年、サニックス創業者の故宗政伸一氏に誘われ、創部わずか2年目のチームに加入した。
「サニックスが私の人生を変えた。ここから成功に続いている」。10月、サニックス本社を訪れたジョセフ氏は感慨深げに語った。
ラグビーをこよなく愛した宗政氏が12年から始めた高校生を対象にした「サニックスワールドラグビーユース交流大会」は、これまで20カ国・地域から1万3千人が参加し、後に145人が各国代表としてW杯に出場している。
ラグビー熱はW杯後も冷めやらない。トップリーグの下部に当たるトップチャレンジリーグの試合が行われた12月21日、会場のレベルファイブスタジアム(福岡市)には4639人が駆け付けた。関係者は「関東や関西にはまだ劣るが、過去にない熱気だ」と語る。
第1試合は九州電力キューデンヴォルテクスが清水建設ブルーシャークスに、後半ロスタイムのペナルティーゴールで逆転勝ちした。パスやタックルが決まるたびにスタンドからどよめきや歓声が上がった。
ヴォルテクスの山田有樹主将は「今まで以上に注目されている。(W杯で)ブームは生まれた。応援の声に結果で応えなければならない」と語った。
九州はラグビー王国と呼ばれる。事実、少年少女チームは数多く、高校も名門がそろう。ただ、大学や社会人では関東への流出が否めない。このブームを追い風に、関係者一丸となったワンチームのスクラムで、「王国」にふさわしい姿になることを期待したい。(九州総局 中村雅和)