【寅さん50年 男はつらいよを読む-吉村英夫】(42)お帰り 寅さん(1/2ページ) - 産経ニュース

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寅さん50年 男はつらいよを読む-吉村英夫

(42)お帰り 寅さん

 『男はつらいよ』シリーズ第50作『お帰り 寅さん』が公開された。新作を見るのは24年ぶり。第1作からだと半世紀がたつ。

 寅のおい、満男(吉岡秀隆)は48歳になった。鳥取砂丘で愛する泉(後藤久美子)と再会した第44作『寅次郎の告白』の夢から新作は始まる。28年前、2人とも若い!

 時はさらに遡(さかのぼ)って、満男の両親、さくらと博(倍賞千恵子と前田吟)の結婚に寅が待ったをかける第1作のシーンが挿入される。けがの功名で、2人が結婚を決意するハイライト。やっと「寅さん登場」となる。

 現在、満男は妻に先立たれ、中学生の娘と2人でマンション暮らし。なんと小説を書いている。昔のとらやには博とさくらが住み、「カフェくるまや」になっている。三世代が近くでむつまじく暮らすのは、山田洋次監督が理念とする「家族は幸福の砦(とりで)」に合致する。

 満男と泉は偶然に再会。彼女はヨーロッパで結婚し、勤務する国連難民高等弁務官事務所の仕事で来日しているのだ。「シリアは、総人口2200万人の過半が難民となっている」などと泉が通訳する姿が映し出され、山田が世界情勢に目を配っているのがわかる。

 2人のほのかな愛の再燃。かつての若い2人には、常に寅が寄りそっていたのが懐かしい。寅は恋の指南をしたが、人が生きる意味を説く「師」でもあった。

 満男が「何のために生きてるのかな」と問い、寅が「あー、生まれて来てよかったなあって思うことが何べんかあるじゃない。そのために人間、生きてんじゃねえか」と答えるシーンの回想。山田の、今も変わらぬ不動のつつましい幸福論が、寅の口を借りて語られたのは第39作『寅次郎物語』(主なロケ地=三重県、奈良県)だった。

 この第50作は、渥美清と寅さんへのオマージュであり、20世紀人が寅に寄せるノスタルジックな愛着の気持ちを山田が代弁した作品でもある。だが寅が表舞台から退いた新世紀が、幸福な時代なのかという問いを発することも山田は忘れていない。幸福の原点である家族も、高齢になればやがて孤独や貧困と隣り合わせの「無縁社会」へと変貌する不安がある。