主張

来年度予算案 歳出の改革は置き去りか

 国内外の経済情勢に目を配り、機動的な財政出動で景気を支えるのは国の予算の大きな役割である。だからといって、野放図な支出が許されるわけではもちろんない。

 一般会計総額が102兆6千億円を超えた過去最大の令和2年度予算案は、消費税率引き上げ後の経済活力維持に重きを置いた。一方で逼迫(ひっぱく)した財政を立て直す視点は乏しい。

 経済対策に絡む予算の確保が必要だとしても、その政策効果を吟味する作業は欠かせない。既存の歳出を見直し、選択と集中を大胆に進める改革も必要だ。

 こうした努力の跡がみられないのでは、いくら政府が経済再生と財政健全化を両立したと自賛しても説得力はない。安倍晋三政権はこの点を厳しく受け止め、経済を効果的に底上げする財政運営に努めてもらいたい。

 経済対策関連は1兆7千億円超である。政府は消費税増税後の景気低迷を防ぐための予算を通常とは別の臨時・特別措置と位置づけている。元年度も同様の措置があり、2年度までの2年でこれを終えるというのが政府の考えだ。

 だが、いったん膨らんだ予算を元に戻すのが大変なことは、リーマン危機で一気に規模を拡大した予算が、その後も増加の一途をたどったことでも明らかだ。財政規律が緩まぬよう、政府・与党は認識を共有しておくべきである。

 消費税収が増えるため新規国債が減り、国債依存度は31・7%まで低下した。それでも借金体質は同じである。元年度は法人税の減少などで2兆円以上も税収見込みを引き下げ、先の補正予算案で赤字国債発行を余儀なくされた。景気次第でこうしたリスクがあることも念頭に置く必要がある。

 個別分野では、歳出の3分の1を占める社会保障関係費が高等教育無償化などの新たな施策によって大幅に増えた。薬価改定などにより、いわゆる自然増は高齢化に伴う4千億円超に抑えたが、歳出に切り込むめぼしい改革を新たに講じたわけではない。

 公共事業も経済対策で積み増した。ただ、人手不足が深刻化する中で円滑に消化できるのか。不十分なら政策効果も減じよう。

 財政に余裕がないと、経済危機や大規模災害、安全保障上の有事などで機動的に動けない。その意味でも不断の財政構造改革が必要なことを忘れてはならない。

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