高層ビルが立ち並び、道路はアスファルトに覆われた都会に農地は少ない。しかし今、ビル内での植物工場や屋上を利用した農園など、非農地での都市型農業が広がりをみせている。屋内での栽培は自然災害や気候変動による影響を受けにくく食料危機への備えとなるほか、人々は暮らしに近い場所で取れた新鮮な農作物を楽しめるため、食の安全への関心にも応えることができるという。
(藤崎真生)
未来の野菜栽培
未来の農業の可能性が目の前に広がっていた。工場の中に高さ約10メートルの栽培棚がそびえ立つ。LEDライトに照らされたレタスが収穫期を迎えている。棚の横に敷かれたレール上を大型ロボットがスムーズに移動し、アームを使って手際良く収穫していく。ここで取れたレタスは、スーパーを中心に全国各地へ出荷されていくという。
大学や企業の研究施設が集まる「けいはんな学研都市」の一角にある植物工場「テクノファームけいはんな」(京都府木津川市)の内部の様子だ。鉄骨2階建ての建物では収穫や種まきなどをロボットに任せ、1日約3万株のレタスを収穫できるという。
植物工場事業を手がける「スプレッド」(京都市下京区)が、昨年3月に建設した。同社は京都府亀岡市にもパート従業員ら約50~60人が働く植物工場を持つが、けいはんなの工場では検品などを行う約35人に抑えている。「重いものを持ち上げたり、腰を曲げて作業したりしなければならない、人に負荷がかかる部分を自動化しています」と工場長の大岩直弘さん(41)は説明する。
日本の農家は後継者不足や台風をはじめとする自然災害に伴う被害のリスクなど多くの課題に直面している。農業の自動化や、屋内での栽培はこれらの課題を解決できる可能性を秘めるといい、大岩さんは「いつでもどこでも誰でも-極端な言い方ですが、砂漠や東京の都心でも実現できる農業を目指しています」と力を込めた。