東京・丸の内で靴磨き半世紀 笠間出身、パブロ賢次さん(69) 「足元」見つめ感じる格差

 「創業67年 900円」。日差しに赤れんがの色が映えるJR東京駅の丸の内北口を出た辺りで、手書きの看板が目に入る。笠間市生まれのパブロ賢次さん(69)は同じ場所で50年以上にわたり靴を磨き続けている。人々の「足元」を見つめ、広がる格差を実感している。

 晴れたら出勤し、日が暮れると帰る。客の約8割がリピーターといい、企業の「お偉いさん」や新幹線から降りた国会議員らも訪れる。

 靴墨で黒ずんだ何種類もの布を交換しながら靴磨きは進む。布は使い古した薄手のハンカチや壊れた傘の布だ。「靴墨を染みこませて、表面には何も残さないのが大切なんです」と語る。

 靴磨きは父母が終戦後に始めた家業だった。パブロさんは高校を出たころから一緒に働いた。当初50円の料金は徐々に上がってきた。客が減るかもしれないと心配したが、変わることはなかった。

 パブロさんには絵描きとしての顔もある。並んで靴を磨き、画家だった兄、赤平浩一さんの影響で、油絵を本格的に描き始めたのは明治大に通っていたころ。卒業後、早稲田大に入り直し、美術史を学んだ。

 絵を描くことには靴磨きと並ぶ約50年のキャリアがある。ヨーロッパの風景画を得意とし、首都圏の百貨店で個展も開く。「人の心を動かす絵を描きたい」と探求を続ける一方、靴磨きも辞めない。「靴磨きは家業。好きだし、生活の糧だね」。約4年前に事故で亡くなった兄に思いをはせ、「靴磨きでも、絵画でも使う油の性質はよく分かっている」と技術に自信を見せる。

 オフィスビルが立ち並ぶ丸の内には高給取りのサラリーマンらも少なくない。1足で10万円以上の値段がする高級ブランドの革靴を履く人が、しばしばパブロさんの元に靴磨きにくる。

 一方で、靴のすり切れや汚れを全く気にしない人もいる。「見ればすぐ分かる。靴磨きも絵画も、興味のない人には何を言っても駄目ですから。靴に気を使っていない人には『磨いていきませんか』と声を掛ける気も起こらない」と、独特の目で社会を見詰める。

 夜な夜な通う安居酒屋では、少ない生活費を切り詰め、ささやかな時間を楽しんでいる人たちと隣り合わせる。そんなときに、日中に磨いた高級靴を思い浮かべると「あの靴は、この人たちの給料1カ月分の値段だ。もう金持ちと貧乏人はコミュニケーションすら取れなくなっているんじゃないかな」と格差を痛感することがある。

 数千円ぐらいの靴で就職活動をしている学生が立ち寄ると、ついつい余計に時間をかけて磨いてしまう。

 「大変だけど頑張って。内定取ってまた来てね」

 こう声を掛けて送り出している。