朝晴れエッセー

赤ちゃんが帰る日・11月29日

長女が初出産のため、静岡の私と妻のところに里帰りしたのは、8月初めの頃でした。9月に無事お産も済んで、それからは一家4人の楽しい生活が始まりました。

赤ちゃんの泣く声を聞くと、つい顔がほころんで、今まで静かだったわが家は、とても賑(にぎ)やかになりました。最近では、時々赤ちゃんが私たちをじっと見ている様な気がして、何度も名前を呼んではみんなで大喜びしました。

しかし、そんな楽しい時間もそう長くは続きません。10月中旬にお宮参りを済ませると、娘と赤ちゃんは、静岡空港から朝9時発の福岡行きで帰ることになりました。 私の勤め先は空港の近くにあって、大井川の大きな橋を車で渡る際、その9時発の飛行機が、ぐんぐん高度を上げて飛び立つ姿が、毎日すぐ前方に見えるのです。

娘が帰る日の朝、私は「飛行機が飛び立ってすぐ、左下に大きな橋が見えるから、そこにお父さんがきっといるからね」と話しました。

9時7分、橋を渡っている私の目の前に、まさにその飛行機が見えてきたのです。私は思わず車の窓を開けると、飛行機に向かって大きく何度も手を振りました。

「見えたかな」と思うと、急に涙があふれてきました。かわいい孫があそこにいる…。私は車の窓を閉めると、もう飛行機を見ないことにしました。

「戻ってこないかな」「もう一度小さなやわらかい手をさわりたい」

そう思うとすぐにでも飛んで行きたい気持ちになりました。

今村 正秋 72 静岡県藤枝市