朝晴れエッセー

断捨離断念・11月24日

齢(よわい)八十になった。そろそろ身辺整理を始めぬと娘たちに迷惑がかかると、手始めに押し入れを開けた。すると、そこにぎっしりと中・高・大学時代の教科書や参考書、ノートが。「舌切り雀(すずめ)」の心優しいお爺(じい)さんが雀からもらって帰ってきた葛篭(つづら)ながらであった。

中の一つ一つを手に取ってみる。それぞれに思い出がよみがえってきて懐かしい。まず手に取ったのが中学に上がるとき、6年の担任の先生から贈られた英和辞典。中学時代は専(もっぱ)らこれを使用したが、高校に入学するときにもっと分厚な詳しい辞典がほしいと、買い替えた。

次、毎週楽しみに購読していた「学生週報」(旺文社)。文字通り週刊で、1冊25円だったが、大学の情報なども満載。志望校を決めるのに参考になった。また、連載小説もあり、福田清人さんの「新編・源氏物語」を貪(むさぼ)り読んだ。

次、ラジオ講座のテキスト。田舎のこととて受験勉強の手段としてはこれしかなかった。一つは旺文社の「大学受験ラジオ講座」で、これは夜の11時から1時間、2科目。山あいのわが家はラジオ大分からの電波が届きにくく、耳をラジオにくっつけて聞いた。

もう一つの講座はNHK。パラパラッとテキストをめくると懐かしい書き込みが目に飛び込んでくる。われながら高校時代は受験に懸命だったんだな、としみじみ思う。そんなよすがとなる一つ一つを、自分の手で捨てるに忍びない。これらは私の死後に娘たちに一気に片付けてもらおう。それしか方法はない。

安達 郁雄 80 農業 大分県国東市