鎌倉時代に刀装具などを製造していたとみられる京都市下京区の工房跡から民間調査会社「京都平安文化財」が調査で出土していた八稜鏡(はちりょうきょう)が、平安時代中期の10世紀代に作られた高級品だったことがわかった。表面の傷口などから、工房の職人が良質な材質に目を付け、ほかのもの作りの材料として再利用していた可能性があるという。
昨年6月から9月にかけて平安京の左京八条二坊九町の一角、約280平方メートルを調査した結果、鏡や刀装具などの鋳型などが出土。この周辺が平安時代から鎌倉時代にかけて「七条町」と呼ばれる京の商工業の中心だったことを裏付けた。
遺構の一角から出土した鏡は、2羽の鳥に唐草などがからんだ「瑞花双鳥(ずいかそうちょう)八稜鏡」。八稜鏡は8枚の花弁状に縁どった形をし、平安時代全般にみられる。直径は11・5センチ、厚さは最高5ミリ。一部が欠け、表面には2本の太い線状の痕跡がみられた。
鏡に詳しい京都国立博物館名誉館員の久保智康氏が鑑定したところ、10世紀代に制作されたことが判明した。久保氏によると、この鏡は化粧か宗教的儀式・装飾に使われていたため、当時の上流貴族の女性か寺院などで所持されていたとみられる。
また欠損した部分については、傷口から硬質の鏡に何らかの力が加わって割れたとみられ、その後は鏡に含まれていた錫(すず)が抜けていったのに伴い軟らかく変質したものと分析。線状の痕跡は、のちに廃品などとして鏡を入手した鎌倉時代の工人が、鏡を別の金属製品をつくるための材料として再利用するために割ろうとした可能性もあるという。
同社の植山茂主任調査員は「八稜鏡は平安京内でもめったに出ることのない珍しいものである一方、七条町の生産活動の一端を垣間見ることのできる史料でもある」と話している。