高齢化率高い鳩山ニュータウン 昭和レトロ喫茶が交流の場に 生活芸術家・菅沼朋香さんが出店

 ■シニアと若者つなぎ地域再生へ

 県内で高齢化率が最も高い鳩山ニュータウン。整然と区画された街に、場違いな喫茶店が不定期で営業している。店名は「ニュー喫茶 幻」。家の前に看板が置かれているのがオープンの合図だ。空き家の増加でニュータウンの消滅が危惧される中、東京芸術大出身のアーティスト、菅沼朋香さん(33)は昭和レトロな喫茶店を通じて、住民同士の交流を活発化させ、地域コミュニティーの再生を目指している。(黄金崎元)

 「まさか嫌いだったニュータウンに住むとは思わなかった。今は生き方そのものをアートにしている」

 平成29年2月、大学院生だった菅沼さんは都内で修了制作展を行っていた。自らを「生活芸術家」と名乗り、昭和レトロと高度成長期を活動テーマとする菅沼さんは、自分の人生の再現ドラマを制作し、未来のポスターを貼っていた。

 その中にあった「移住編」が同大准教授で建築家の藤村龍至さんの目にとまり、「高齢化率が高く、社会問題になっている鳩山ニュータウンに行かないか」と誘われた。

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 愛知県豊田市出身の菅沼さんは自身もニュータウンで育った。トヨタ系列の会社で働く世帯が多く、「目立つと排除され、変わり者の私にとっては息苦しい場所だった」と当時を振り返る。当初は父の実家がある長野県に移住する予定だったが、「高齢化したニュータウンをテーマにするのも良いと思った」という。

 バンド活動をしていた夫のトヨ元家さんとともに同年3月、鳩山町に移住し空き家に住み始めた。町は7月に移住促進や地域交流の場でもある「鳩山町コミュニティ・マルシェ」を開設。藤村さんが役員を務める会社が指定管理者となっており、そこで2人は社員として働き、普段は空き家バンクや町おこしの仕事をしている。

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 今年2月からは自宅を改装し、「ニュー喫茶 幻」を不定期で始めた。店内はサイケデリックな内装で、ピンクレディーや渚ようこさんのレコードが並び、たばこ屋の看板などが置かれ、昭和の雰囲気が漂う。菅沼さんは「熊とサケの置物は、お客さんが持ってきてくれた」と笑顔を浮かべる。

 9月からは毎週火曜日の午前8時~10時半までモーニングの営業を始めた。鳩山町には宇宙航空研究開発機構(JAXA)の地球観測センターなど宇宙関連施設が多い。看板商品はトヨさんがブレンドした「宇宙コーヒー」だ。いつも菅沼さんとトヨさんはカウンター内からお客さんに声をかけ、店は笑いが絶えない。

 常連も多く、店内に掲示板を置き、住民同士の交流を促している。客層はリタイアした60代以上が多いという。菅沼さんは「できれば20、30代のお客さんに来てもらい、10年後に後期高齢者を支える形を町につくりたい」と話す。

 平日の夜にはスーパー近くのバス停前に菅沼さんが制作した屋台を置き、トヨさんが得意のギターを弾いて、会社帰りの20、30代の住民らに声をかけ、店の宣伝も行っている。

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 昭和46年に開発された鳩山ニュータウンは東京のベッドタウンとして平成9年まで分譲された。人口は7年の約1万8千人をピークに年々減少している。今年10月1日時点で3273世帯、7087人が住んでいる。65歳以上の高齢化率は52・25%と高い。

 彩の国さいたま人づくり広域連合の調査によると、鳩山ニュータウンは県内で最も高齢化率が高く、消滅可能性ランキングで1位となっている。1人暮らしとなった住民が都内に住む子供のもとへ行き、施設に入るケースも目立つ。空き家は100戸以上あり、「あまり物件が動いていない」(菅沼さん)という。

 今は70代が多く、これから80代が増える。菅沼さんは「ベッドタウンの役割は終わった。町の中で活動する人を増やさないとゴーストタウンになってしまう」と危機感を募らせる。

 これまで菅沼さんは借家だったが、10月に購入した。「2年前に移住した際に10年後は大変なことになるといわれていた。ここに住み、8年後の姿を見てみたい。創作活動に生かしたい」と話す。これから喫茶店だけではなく、住民を巻き込んだイベントも順次開催する予定だ。

 住宅街の中に場違いな喫茶店をオープンさせるなど町に刺激を与えている菅沼さん。「そのぐらいのエネルギーがないと町は変わらない」と強調した。

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