竹島を考える

日本を「近くて遠い国」と呼ぶ韓国の主張 

東北アジア歴史財団も、その事実は認識しているはずである。だが『日本の偽りの主張 独島の真実』ではその片鱗(へんりん)すら見せていない。なぜなら韓国側ではその後、竹島論争の争点を変えているからだ。

島根県の『韓国が知らない10の独島の虚偽』では反証を歴史分野に限定している。竹島の領有権を主張できる歴史的権原が韓国側にないとすれば、「国際法上も」竹島は韓国領とはいえなくなるからだ。

ところが、韓国側では何を勘違いしたのか、争点を歴史分野から「国際法」に移した。韓国側には、「不都合な事実」があるとそれを無視し、何としても反論を試みる傾向があるが、このときも国際法分野で、日露戦争中の竹島の日本領編入を「侵奪だ」としたのである。それが、もう一つのタイトルである「日帝侵奪史を正しく知る」に表れている。

日本外交の課題

今回、『日本人が知らない独島10の真実』が表題を変えて公開されたのも、この刊行物が、外務省が2008年に刊行した小冊子『竹島問題を理解する10のポイント』を批判した成果の表れで、それに対し日本政府が反論してこなかったからだ。

日本外交にはこの種の課題がある。特に日韓の歴史問題には、その傾向が見られる。「歴史教科書問題」では「近隣諸国条項」を定め、「慰安婦問題」でも「河野談話」の一部文言が言質に取られ、日本は自縄自縛の状態にある。

近年の「徴用工問題」もそれに近いものがある。緒戦は「輸出管理厳格化」や「ホワイト国」からの除外で威勢がよかったが、いまだ次の一手が打てずにいる。

そんないつも守勢の外務省が『竹島問題を理解する10のポイント』を刊行したことは、韓国側には衝撃的だった。しかし、このときも次の一手を打てなかった。この小冊子は、島根県の「島根県竹島問題研究会」の報告書を基に編纂(へんさん)されていたから、それを外務省に求めるのは無理な注文だった。

そこで島根県が『韓国が知らない10の独島の虚偽』を公開し、反論したのである。その後も韓国側からの批判が続くが、日本政府からの反駁(はんばく)はない。韓国は島根県を無視して、外務省に攻勢をかけたのである。

「近くて遠い」日韓関係とは

日本政府も2013年に「領土・主権対策企画調整室」を発足させたが、東北アジア歴史財団のような役割は果たせずにいる。同財団はその間隙を突き、既存の『日本人が知らない独島10の真実』を改題しただけの『日本の偽りの主張 独島の真実』を公開し、『日帝侵奪史』として、一般国民と学生向けの教材にリサイクルした。

財団ではこれまで397種の研究業績を刊行している。それも最近は、『日帝侵奪30の場面』、『韓日歴史争点-日帝植民支配と克服』、『帝国の二重性-近代独島を巡る韓国、日本、ロシア』、『日本のアジア太平洋戦争と朝鮮人強制動員』など着々と「歴史戦」に備えている。

だが、この韓国側の攻勢に対し、「輸出管理厳格化」と「ホワイト国」からの除外で、韓国との「歴史戦」に勝てるのだろうか。韓国の竹島研究は「事実と近くて遠い」ところにあり、日本政府が挑む歴史戦は「戦闘と近くて遠い」ところに戦陣を張っている。日韓両国は、そんな「近くて遠い」関係なのだ。

(下條正男・拓殖大教授)


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