スマイルシンデレラ-。そう、女子ゴルフで日本人として42年ぶりにメジャー大会の全英女子オープン優勝を飾った渋野日向子プロです。ゴルフを知らなくても、多くの人がこの言葉を耳にしたことと思います。
優勝そのものが歴史的快挙であることのみならず、世界中のメディアから「今まで見たことがない」と絶賛されたのが彼女のプレー中の笑顔です。
優勝争いという極限の緊張状態の中で、コースをつなぐ通路のファンに対してハイタッチをしたり笑顔を投げかけたり、屈強な米男子ツアーの選手たちでさえ「心臓が止まりそうだ」などと表現する最終ホールの緊迫の場面でも、彼女は満面の笑顔でプレーをしていました。
自然な笑顔がファンのハートをわしづかみにし、その応援が結果的に彼女を優勝に導いたのでしょう。まさに「笑う門には福来る」ですね。
さて、健康についても同様のことがいえるようです。健康に対する笑いの効果はいろいろな研究で確かめられています。
そもそもの始まりは1976年、米国のジャーナリスト、ノーマン・カズンズが書いた闘病記であり、彼は笑うことで自らの難病を克服したと発表しました。
これを皮切りに医学的な研究が始まり、笑いによって免疫力が上がる、ストレスを感じにくくなるといった研究報告が相次ぐようになりました。ほかにも、体にさまざまな良い効果をもたらすことがわかってきました。
例えば、笑うことにより脳の働きが活性化し、脳の海馬(かいば)の容量が増えて記憶力が向上する。思いっきり笑うことで腹式呼吸と同じ状態になり、体内に酸素が増えて血行が活発になる。また、緊張時には交感神経が有意だが笑うことで副交感神経が活発になり、その結果、自律神経のバランスが整う。笑うと鎮痛作用のある脳内ホルモンのエンドルフィンが分泌され、痛みを緩和する-などなど。
ただそうは言っても、日常生活で自然と笑えることはそんなにないかもしれません。しかし、別に楽しいことがなくても笑顔を作るだけで脳は笑っていると錯覚し、気分がほぐれてきます。「作り笑顔」をするだけでも脳のドーパミン神経活動が活発になり、快の感情が引き起こされたという研究報告もあります。
『幸福論』を書いた18世紀のフランスの哲学者アランによると「幸福だから笑うのではない、笑うから幸福なのだ」とのことです。心身の健康に関しても、渋野プロのように「笑ったもの勝ち」なのかもしれませんね。
(済生会和歌山病院副院長 脳神経外科部長 小倉光博)