主張

RCEP妥結断念 先走らずインド取り込め

 日本や中国、インド、東南アジア諸国連合(ASEAN)など16カ国による東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉は、目標だった今年中の妥結が見送られた。

 インドを除く15カ国の交渉は終えたが、関税撤廃などでインドとの合意に至らなかったためである。首脳会議の共同声明は、来年の署名を目指す新たな目標を掲げた。

 RCEPは過去にも妥結延期を繰り返してきた。ただ、肝心なのは自由貿易に資する質の高い協定にすることだ。結論を持ち越すのはやむを得まい。

 懸念するのは、インドを交渉から除外しようとする中国などの動きが強まることだ。当のインドも交渉離脱を示唆している。

 地域大国であるインドが抜ければ、RCEPでの中国の存在感が突出しかねない。対米貿易摩擦のさなかにある中国にとっては、自らの勢力圏を広げる上で、願ってもない展開となるだろう。

 RCEPの源流は日中韓3カ国とASEAN10カ国の計13カ国で構想された枠組みである。そこにインドとオーストラリア、ニュージーランドを加えて16カ国とするよう提唱したのは、中国の覇権的な動きを懸念した日本だった。

 日本が今も16カ国の維持を重視するのは当然である。安倍晋三政権は「自由で開かれたインド太平洋」構想を掲げている。そのためにも、インドが離脱しないよう粘り強く働きかけるべきだ。

 インドが警戒するのは関税を大幅に削減・撤廃すれば、ただでさえ巨額にのぼる対中貿易赤字がさらに拡大するとみるからだ。その危機感は分かるが、RCEPや環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)などでアジアの結びつきが強まる中、インドが取り残される影響も併せて考えてほしい。

 一方、インドを除く15カ国は署名に向けた法的精査を始める。気がかりなのは、その中身がはっきりしないことだ。日本などは高水準の関税撤廃だけでなく、知的財産権や電子商取引などで質の高いルール作りを求めてきた。いずれも念頭には中国があるが、実効性のある合意となったのか。

 そこが不十分なら、知財を軽視し、デジタル保護主義に走る中国の振る舞いを阻むどころか、お墨付きを与えかねない。その点を吟味するためにも、署名ありきで先走る姿勢は慎むべきである。

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