国内屈指の木材産地である大分県日田市の林業会社、田島山業が木材の需要開拓による多角化と、生産過程の「見える化」に積極的に取り組んでいる。同社の木だけを用いた住宅を建設会社とともに手掛け、大型木製パネル「CLT」を床材に使った日本初の高層マンションにも採用された。
木材自給率は長く低迷し、平成14年に統計開始後で過去最低の18・8%まで落ち込んだ。しかし、29年に36・2%と32年ぶりの高水準となった。それでも、田島信太郎社長(63)が「流通の主導権を握り、ブランド化を図る」という戦略を急ぐ背景には、国産木材の競争力を高め、持続可能な林業をつくり上げる必要があるとの危機感がある。
◆逆境からの出発
田島社長は昭和60年に東京の大手百貨店を退職し、実家の田島山業の経営を継いだ。この年にはプラザ合意があった。為替の急激な円高ドル安が進んだのを背景に安価な外国産材が流入し、国産スギ材の競争力が低下した。逆境からの出発となり、独自の取り組みで収益改善を図ってきた。
室町時代に植林が始まったと伝わる地域の約1200ヘクタールのスギ林が田島山業の私有林だ。伐採し、切り出した丸太は時間をかけて天然乾燥し、市場を介さずになじみの製材業者だけに直販する。
床から天井まで同社の木だけを用いた「産直住宅」の販売事業を北九州市の建設会社と平成27年に始めた。木材の性質を見極めて適材適所の使い方を助言する。
住宅に加え、空間づくりにこだわる飲食店からも受注し、これまでに北九州、福岡両市に計十数棟が完成した。施主からは「今でも遊びに来た客には大黒柱を自慢している」といった声が寄せられ、好評だという。
◆マンションにも
ブランド化と並び、力を入れるのが用途開拓だ。仙台市泉区で今年2月に完成した高層マンションでは、施行した竹中工務店(大阪市)に直接販売したスギ約100本がCLTに活用された。
竹中工務店の担当者は「ビルに木材を使うにはトレーサビリティー(生産流通履歴)が重要になる。住宅で実績がある田島山業は信頼できた」と採用理由を明かす。
今後は、栽培から加工、販売まで担う6次産業化も進める方針だ。地元家具店と組んで椅子などを製造、販売する。
田島社長は「時代に合わせ、新たな使い方を考えるのも腕の見せどころだ」と訴え、今後も用途開拓を進める考えだ。