〈厚生労働省を退官後の平成28年、作家の瀬戸内寂聴さんとともに代表呼びかけ人となり、貧困や虐待、性被害などで苦しむ若い女性たちを支援する「若草プロジェクト」を立ち上げた〉
拘置所内で刑務作業として、食事や洗濯物などを運ぶ若い女性受刑者が、薬物や売春などの罪で受刑していると知って驚きました。もっと手前で支援ができたはずです。代表理事の大谷恭子さんと「今、世の中で何が一番置き去りにされているのか」と話し合い、家庭環境が厳しかったり、性被害に遭ったりした少女たちには居場所がないという結論に至った。児童福祉や家庭内暴力(DV)支援、売春防止のための保護措置などと制度で割り振ると、隙間ができ、なじみにくい子もいる。
彼女たちには電話相談もハードルが高いというので、無料通信アプリのLINE(ライン)で相談を受け付けています。ただ、SNSの発達は、相談の入り口には良いけれど、悪い入り口も隣り合わせにあります。印象に残っているのは、インターネットで支援先を探していると、自殺への誘導や、性産業への勧誘がたくさん画面上に出てくることです。
悪い方へと勧誘する人たちは、すごく優しい。少しでも悪いことをしたと思っている子は自己評価が低いので、そういう優しさに弱い。一方で、公的な支援は叱られる、説教されるというイメージが強い。ハードルの低い相談窓口を作れないかなと思う。誰にも相談できないと、どこにも逃げ場がないように感じることってあるじゃないですか。性が商品化できる社会での苦しみは、根が深いですよね。
〈郵便不正事件から復職後、生活困窮者の支援を担当する社会・援護局長を務めたことも影響した〉
薬物や売春をする少女たちの中には、困窮した厳しい家庭状況から抜け出し、1人で稼いでいこうと思い、水商売や風俗に走る子も少なくありません。世の中からは、悪い子とかモラルが低いとか、好きでやっているといわれ、苦労して戦っている。一生懸命に戦っている子を大人たちが利用し、もうけている構図はおかしいんじゃないかと思うようになった。
再犯防止シンポジウムで、NPO法人「リカバリー」代表の大嶋栄子さんが「溺れている人に『わらをつかむな』って説教して何になる」と話していたのに衝撃を受けた。「やるべきことは、ブイを投げることでしょう」と。夜の街を徘徊(はいかい)している子の中には、家から逃げ出してきたのに、悪い子だとレッテルを貼られていることもある。発見できていない、手を差し伸べられていないケースが山のようにあり、その先が悪い子というレッテルでは救われないと思う。
当事者研究で知られる東京大の熊谷晋一郎准教授から教わったのは、医療や福祉の分野で、支援者の偏見を取り除くだけでも、随分と治療効果が上がるということ。カナダにはそうしたプログラムがあるらしく、日本でもできないかと思った。また、当事者同士で自由に語り合い、自分たちで問題を少しずつ消化していく、解決策を発見していくプロセスはすごく役に立つと思います。そういう支援の仕方が、だんだん増えてくるんじゃないですかね。(聞き手 伊藤真呂武)