私の本棚

『1984年』ジョージ・オーウェル著 千葉商科大学教授・国際教養学部長・宮崎緑さん

1984年
1984年

 大学に入ったばかりの頃、ロック好きの弟の影響で英ロック歌手、デビッド・ボウイの曲をよく聞いていました。その中に小説と同名の「1984」というのがあって、どんな本だろうと手にしたのです。

 《「1984年」(現在は新訳「一九八四年」が刊行)は、1949年に刊行され、冷戦下の西側諸国で広く読まれた反ユートピア小説。全体主義による極度の思想統制と監視社会で人間性が壊れていく恐怖や不条理を描き、その後の小説、音楽、映画などにも影響を与えた》

 衝撃でしたね。社会の本性を見せられたような気がして…。ソ連のアフガニスタン侵攻などで米ソが激しく対立し、新冷戦といわれた時代でしたから、なおさら引きつけられたのかもしれません。共産主義のような統制社会がどこへ行きつくのかを考える上でも、多くの暗示を得ることができました。

 題名である1984年になったとき、私はニュースキャスターをしていましたが、読み返してみて、改めて衝撃を受けました。小説ではテレスクリーンといって、市民を監視して洗脳する装置が恐ろしい役割を果たします。一方で昨今のメディアはどうか。事実を誇張したり歪曲(わいきょく)したりすることはないか-。そうした情報の危うさを、伝える側の一員として深く考えさせられたのです。

 大学で教鞭(きょうべん)をとるようになってからも、時折ページをめくっては、何らかの刺激を受けています。目まぐるしく進歩し、変化する情報社会の中で、思考の原点を与えてくれる1冊といえるでしょう。

 学生たちにも読むよう勧めています。「難しい」などとあまり評判はよくありませんが、香港の民主化デモのように、いまも統制社会と戦っている若者たちがいる。この小説に暗示されていることは、私たちの未来と決して無関係ではないのです。

【プロフィル】宮崎緑

 みやざき・みどり 神奈川県出身。NHK「ニュースセンター9時」で初の女性キャスターを務めた後、もともとの志望である学界に戻り、平成27年から現職。