朝晴れエッセー

我が良き友よ・10月31日

今を遡(さかのぼ)ること40有余年。全寮制の高校を卒業し、大学に進学したのを機に京都での下宿生活が始まった。食事があてがわれていた高校時代に比べると、自由が増えた分、不便なことも増えた。

貧乏学生であった私は、無駄な出費を抑えるために自炊生活を始めたが、どうしても栄養が偏ってしまう。その偏った栄養を是正するために努めて野菜を取るようにしていた。そんな私を知ってか知らずか、同期に下宿の住民となったT君が、時折、野菜たっぷり、肉少なめの豚汁を作ってもてなしてくれた。彼の作る豚汁は絶品で、彼の部屋から、その香りが漏れてくると、私のみならず、他の同居人も集まってきて、彼の部屋はサロンとなり、やがて酒盛りが始まる。

彼は早朝に牛乳配達のアルバイトをしていたため、夜は早々に布団に入りたかったであろうに、わが物顔に部屋を占拠している私たちを決して部屋から閉め出すことなく、一人、自室の押し入れに入って休んでいた。狭量で短気な私には、とてもまねのできないことを飄々(ひょうひょう)として、やってのけてしまう彼を、いつしか私は心の師と仰ぐようになっていた。

共に大学を卒業して30有余年、頭髪に霜を交えるようになった今、郷里で家業を継いで働いている彼との交流は連綿と続いている。

今秋も京都の酒を持って、彼のもとを訪ね、「二人で夢をかかえて旅でもしないか、あの頃へ」と懐メロをBGMにして飲み明かしたいと考えている。

小越(こごえ)良夫 60 京都府向日市