話の肖像画

元厚生労働事務次官・村木厚子(1)実社会、学生に伝える日々

元厚生労働事務次官、村木厚子さん(三尾郁恵撮影)
元厚生労働事務次官、村木厚子さん(三尾郁恵撮影)

〈事務次官まで務めた厚生労働省を退官した後、平成29年4月から津田塾大に新設された総合政策学部の客員教授として教壇に立つ〉

社会課題にチャレンジできるリーダーシップのある女性を育てるというのが学部のコンセプト。自分のやってきたことが役に立つと思い、授業を持たせてくださいとお願いしました。

〈大学の創立者、津田梅子は女性リーダーの先駆けで、女性の地位向上に生涯をささげた〉

旧労働省に入った頃の大先輩だった赤松良子さん(元文相)や森山真弓さん(元法相)が津田塾出身で、社会へ出て、仕事をする女性を多く輩出してきた。今こそ、女性を社会にきちんと送り出していくのに大事な時期だと感じたし、一度大学で教えてみたかったんです。

もともとは、先生という仕事はとても無理だと思っていた。子供に対する影響が大きいじゃないですか。でもなぜか、若い頃から「先生に向いているんじゃないの」とか、初対面の人と職業の話になると、「学校の先生ですか」と聞かれることが多かったんです。この年でやっとチャレンジできました。

〈厚労省時代の人脈を生かし、ホームレス支援を行うNPO法人理事長の奥田知志さん、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)保健局長の清田明宏さんら第一線で活躍するゲストを招いて講義をしてもらってきた〉

調査研究や論文指導をうまくできるかと言われれば違う。いろいろな分野、しかも現場の人をいっぱい知っているので。直前まで受験勉強をしてきた学生が、実社会での話に触れ、視野を広げてもらえればいい。現場で課題が生まれ、誰がどんな形で解決しているかというと、NPOがいるし、企業で採算の取れる範囲で競争しながらやっている人もいる。役人で制度作りをしている人もいる。「毎週、社会科見学に行っているような感じです」と言ってもらったので、ちょっとは成功したかなと思います。

〈初年度から教えている学生が3年になり、就職活動を迎えている〉

どんな進路をたどるかは楽しみ。仕事はつらいものというイメージを持っている子が多い。理由を聞いたら、ブラック企業や過労死のニュースばかり流れているからとのこと。あとは「通勤電車のサラリーマンの顔が暗いから」と言っていましたよ。(聞き手 伊藤真呂武)

村木厚子

むらき・あつこ 昭和30年、高知県出身。高知大文理学部卒業後の53年4月、旧労働省に入省。厚生労働省雇用均等・児童家庭局長、内閣府政策統括官(共生社会政策担当)、厚労省社会・援護局長を経て、平成25~27年に同省事務次官。退官後は津田塾大客員教授のほか、伊藤忠商事、住友化学、SOMPOホールディングスの社外取締役を務める。夫は入省同期の太郎氏で、子供は2女。

(2)へ進む

会員限定記事会員サービス詳細