TOKYOまち・ひと物語

町工場から新しい価値を TOKYO町工場HUB 

古川代表(左)と椎名社長
古川代表(左)と椎名社長

 日本の「ものづくり」を支え、経済発展に寄与してきた「町工場」が減少の一途をたどっている。ITが発達し、小さな企業でも業種や距離を超えて商売ができる時代になったが、多くの町工場にはそうしたノウハウがない。「TOKYO町工場HUB」(東京都葛飾区)の古川拓代表(53)は、町工場と専門家、町工場同士をつなぐ仲介役であり当事者だ。経営者と協働し、技術力を生かした新たな事業展開や市場開拓によるビジネスモデルの転換に挑戦している。

 足立区の椎名製作所は、65年以上の歴史を持つアクセサリー専門の金属加工業者だ。設計・加工・仕上げまでを一貫して行う技術には自信がある。しかし、三代目社長の椎名直之さん(45)は「いくら技術力があっても、われわれは請負業者でしかない」と話す。

 注文は海外に奪われ、先細りする経営に危機感が募っていた。2年前、椎名さんは同区の異業種交流会「未来クラブ」で、熱心に町工場の未来を語る男性に興味が湧き、話しかけた。「最初は会社のホームページを作ってもらえたらいいな、くらいに思っていたんですよ」と笑う。それが古川さんとの出会いだった。

 町工場の減少や業者同士の断絶を古川さんは危惧し、同時にそこに商機を見いだした。町工場などの中小企業や個人経営者をつなぐ有機的なネットワークを構築することで、新しいビジネスモデルを構築できるのではないか。

 その思いは、椎名製作所を実際に訪れることで一層強くなる。そこには、長年のアクセサリー製作で蓄積された膨大な金型や確かな技術があった。優れた技術を持っていても、それをうまく世の中に伝えるノウハウ、外注する資金がない町工場は多い。椎名製作所もそんな企業の一つだった。

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