「強いビル風」のない街づくりを考えれば、高層建築のデザインが激変する:ロンドン中心部で新ガイドライン

RICHARD BAKER/GETTY IMAGES
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 高層ビルが原因で吹く強風は、歩行者の安全を脅かすのはもちろん、公共空間の不快度も大きく左右する。ロンドンの金融街「シティ」を管轄する自治体は、ビルが原因で起こる強風を防ぐべく、新たにガイドラインを制定した。こうした動きは北米にも広がっており、ビル風を抑えることが街の人々の生活の質の向上につながるという期待が高まっている。

TEXT BY ALEX DAVIES

TRANSLATION BY MAYUMI HIRAI/GALILEO

WIRED(US)

高層ビルを建築する際には、多くの検討事項がある。なかでも最も基本的なのは風だ。例えば、嵐のような強風に耐えられなかったり、建物内にいる人々が船に乗っているように感じるほど大きく揺れたりするビルは、よいものとは言えない。

しかし今後、ロンドンの中心部にビルを立てる際は、風がビルそのものに与える影響だけでなく、ビルによって生じた風が地上を歩く人や自転車に乗る人に与える影響も考慮しなければならなくなった。

ビル1棟で風は危険になりうる

ロンドン金融地区の中心地を管轄するシティ・オブ・ロンドン自治体は2019年9月、英国初の「風の微気候ガイドライン(wind microclimate guidelines)」を発表した。その目的は、強風が地上に与える影響を軽減することにより、徒歩や自転車の利用を推進することにある。

高層ビルが地上付近の風を強めるメカニズムには2通りある。マンハッタンの多くの道路がそうであるように、高いビルが連なっていると、一種の渓谷のようなものが形成される。こうして風が狭い流路を通らざるを得なくなり、風速が強まるのがひとつだ。

たとえビルが1棟だとしても、重大な影響をもたらす場合がある。高度が高い場所ほど風速は速いが、そのような風が構造物に当たると一部が下向きに流れを変え、ビルの表面に沿って吹き降ろすかたちで地面に当たる。そして再び向きを変えることによって、危険なほどの速度に達するのだ。

英国北部の都市リーズでは11年、32階建ての高層ビルの近くで吹いた突風によってトラックが横転し、歩行者1人が死亡した。調査の結果、地上での風速は時速80マイル(秒速約36m)で、カテゴリー1のハリケーン[編註:日本の基準では「強い台風」]に匹敵する速さだったことがわかった。

市当局は、風の強い日にはこのビル周囲にある特定の道路を閉鎖する措置をとった。この措置は、ビルの所有者が100万ドル(約1億700万円)以上を費やして、建物の基礎部分を取り巻く巨大な帆のような風よけなどの対応策をとるまで続いた。

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