小泉進次郎環境相が第1子の誕生を前に、育児休暇の取得を検討している。日本は男性の育休取得率が低く、与党には男性の取得を義務化すべきだという意見まである。知名度の高い小泉氏が取得すれば男性の意識改革を促すとの声があるが、有権者に選ばれて法案の賛否などを判断する政治家が育休を取ることには異論もある。育休の取得経験がある鈴木英敬三重県知事と、育休問題に詳しい法政大の武石恵美子教授に聞いた。
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鈴木氏「小泉氏から電話あり…」
--知事として育休を取った
「議論の前に前提を2つ指摘したい。一つは、特別職公務員の首長や国会議員には勤務時間も休暇制度もない。もう一つは、育休といっても給付金が出る法律上の制度の育児休業と、法律上の制度ではないが企業・団体が認めている育児休暇は似て非なるものという点だ。私が取ったのは正確にいうと『育児休暇のようなもの』で、1人目の子供のときは飛び飛びで計3・5日間、2人目も飛び飛びで計5日間と、3カ月間、出勤時間を30分ずらし、長男を幼稚園バスまで送る時間をもらった」
--政治家が育休を取ることをどう思うか
「私は社会の最小単位である家族をとても大切に考えているが、世の中の空気を変えることもリーダーの仕事の一つ。小泉氏が育休に言及し話題になったが、ぜひ取ってほしいと思う。国会議員が国益のために力を尽くすのは当然だが、時間の使い方はいろいろあっていい。私の場合も賛否両論あったが、結果的に、三重県庁では男性の育児休業の取得率が知事就任前の1・92%から36・67%に上昇し、育児休暇の取得率は平成30年度に93・33%に達した。女性職員の後押しも大きかった」
「育休といっても、連続して何日も休む必要はなく、柔軟な取り方をすればいい。式典などの出席で副大臣に代われるものは代わるなど、やり方はいろいろ。育休後、取りたいが取れない人がいるという社会状況を変革するためにしっかりと行動すれば、パフォーマンスではないとわかってもらえるはずだ」
--政治家が育休を取ることへの批判もある
「小泉氏から内閣改造があった9月11日の朝に電話があり、『知事はどう育休を取りましたか』と聞かれた。私は自分の育休の話をした上で、公務に支障をきたさないこと、危機管理を万全にすること、妻の不安の払拭が大切だということを伝えた。批判はどんな取り方をしても絶対にある。私は育休中でも台風が来ればすぐに駆けつけられる態勢を取った。育休後も育児参画していれば、批判は消える。そのことも伝えた」
--男性の育児休業取得を義務化する動きもある
「自民党の議員連盟が主張しているのは、今は努力義務となっている育休の取得勧奨を企業に義務付けるというものだ。取得勧奨の義務化であれば、私はあってもいいと思う。その結果、育休を取るか取らないかは家庭事情やキャリア、所得などを勘案して本人が決めることだ。個人の希望を最優先すべきで、押しつけることがあってはならない」(大橋拓史)
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すずき・えいけい 昭和49年生まれ。東大経済学部卒。平成10年に通商産業省(現・経済産業省)に入省し、20年に退職。23年の三重県知事選で初当選し、現在3期目。2児の父で、妻はアーティスティックスイミング五輪メダリストの武田美保さん。
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武石氏「大臣と一般の育休は異なる」
--小泉氏が育児休暇の取得を検討している
「小泉氏の立場で育児を理由に休暇を取得すれば、男性の育児についての理解が進むという効果が期待できる。『この日は環境省に来ないが、緊急時は連絡して』という形での働き方はあり得る。だが大臣と一般の育休は全く異なるので、同じように議論すべきではない」
--男性の育児休業取得を進めるため、自民党内に議員連盟が発足し、育休義務化に向けた議論をしている
「夫婦間の話し合いもなく、当たり前のように女性が育休を取る状況があるため、男性の育休取得を進めることは重要だ。男性の取得が伸びない中、義務化で一つの流れを作るという考え方も理解できる。だが、育休は権利なので、取得するかは本人が決めるもの。育休を取れば収入は減る。休業でなく時短勤務でも育児には関われる。育児をどうするかは極めて私的な問題で、あり方は多様性を認めるべきだ。法律によって、男性だけに育休取得を義務付けるというのは違和感がある」
--政府は令和2年に育休取得率を13%とする目標を掲げる
「男性の育児休業を増やすための施策を実施し、その効果を検討するため、目標を設定して進めることは重要だ。平成30年度の取得率は6・16%で達成は難しいと思うが、達成できない背景に対処することが必要だ」
--育児・介護休業法は29年の改正で、男性の育児参加を促す休暇制度の新設を企業の努力義務に位置づけた
「育休は希望者が取るといえば取得できるという点で、労働者の権利を法律で保障している。男性の育休が取得しにくい職場の雰囲気があるので、制度の個別周知が規定された」
--それでも取得は進まない 「法律は子が1歳になるまでの育休取得を認め、さらに『パパママ育休プラス』という制度を使えば、両親が育児をする場合2カ月延長できる。しかし、これとは別に、子が1歳の時に保育園に入れないなどの理由で、最大1年の延長が可能で、女性が延長している現状がある。両親の育休取得を促す制度がこの延長制度に埋没してしまい、現状では男性の育休へのインセンティブがほぼない」
--男性の育休のあり方は
「大事なのは育休を取りたい人が取れるようにすることで、今の法律の枠組みで対応できる部分は多い。取りたい人を増やすことも重要で『男性にとって子供が小さい時に一緒にいられるのは幸せなことだ』『男性の育児は重要だ』といったことが共通理解として社会に定着することが必要だ」 (中村智隆)
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たけいし・えみこ 昭和35年生まれ。お茶の水女子大院人間文化研究科博士課程修了。平成19年から法政大キャリアデザイン学部教授。厚生労働省労働政策審議会雇用環境・均等分科会委員なども務める。著書に『男性の育児休業』(中公新書、共著)。
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【記者の目】「取りたい人が取れる環境を」
「義務化されていれば遠慮なく育休が取れる。自分も取りたかった」
2人の子を持つ知人は育休義務化の動きに触れ、こうこぼしていた。
男性の育休取得が進まないのは、制度上の課題以上に、制度があっても取りづらい空気があるからだろう。育休明けに職場でいやがらせを受けたり、異動を命じられたりするリスクがあれば、二の足を踏むのも当然だ。
賛否両論がある中で、発信力のある小泉氏が育休の取得を宣言したのは、そうした空気を変えていく狙いもあったに違いない。
三重県知事の鈴木英敬氏の言うように、万全な危機管理態勢を敷いた上で、日中の一部分だけ休んで育児にあてるなど、職務との兼ね合いを見据えながら柔軟な働き方を模索する道もある。パフォーマンスで終わらず、「取りたい人が取れる」環境づくりに取り組んでほしい。(大橋拓史)