朝晴れエッセー

有り難い婆さん床屋・10月20日

80歳を過ぎた14、15年前、何気なく立ち寄った古物屋で、ほとんど使っていないような、真新しい散髪用具を見つけて買った。

「どうなってもよいから」とばあさんに頼み込んで、庭先にブルーシートを敷き、ばあさんはおっかなびっくりしながら鋏(はさみ)を握り、散髪が始まった。

そのとき来合わせたのは、女の保険外交員だった。元理髪店員だった、と言い、ハサミと竹の櫛(くし)の握り方や使い方など細かく教えてくれて、「やっておればすぐ慣れますから」と言ってくれた。

あれ以来、私はばあさん床屋(とこや)に料金も払わず、居ながらにしていつも頭をきれいにしてもらっている。

ばあさまは長女でわがままいっぱいに育ち、長年教職だったせいか93歳になった今も、正義派で曲がったことは許さない。勝ち気でがんこである。それが長生きの秘訣(ひけつ)かもしれぬ。

普通、腰は、くの字型に曲がるものだが、ばあさまは右斜めに曲がり背中が突起しており、よったよったと歩行に難儀している。でも持ち前の負けん気で、今のところ元気で散髪してくれており、本当に有り難く感謝するばかりである。

刈り取った白髪混じりの髪はわずかひとつまみだが、頭がすごく軽くなり、何とも言えない爽快な気分になる。それが一週間ぐらい続くことがうれしい。

願わくば、どうかぼけないで元気で長生きして欲しい、と祈るばかりである。

長塚國雄 95 書道教師 東京都葛飾区