女優、夏帆 主演映画に重ねる28歳の葛藤

20代後半。自らの選択で着実に女優の道を歩む夏帆=東京都新宿区(石井健撮影)
20代後半。自らの選択で着実に女優の道を歩む夏帆=東京都新宿区(石井健撮影)

 数々の映画に出演し、多くの賞も獲得している女優の夏帆(かほ、28)が、20代後半の自身の葛藤を重ねて熱く語るのが、公開中の主演映画「ブルーアワーにぶっ飛ばす」(箱田優子監督)だ。10代でドラマや映画に主演した早熟な女優は、早々に確立された自身とのイメージと闘い続けている。(文化部 石井健)

 「ブルーアワーにぶっ飛ばす」は、東京で働く30歳のCMディレクター、砂田(夏帆)が、友人の清浦(シム・ウンギョ)とともに茨城県の実家に帰省し、理想と現実のギャップに苦悩する姿を描く。

 箱田監督が、自身の葛藤を素材に、夏帆が演じることを想定して脚本を手がけた。また、実家のある茨城で撮影した。夏帆は、撮影場所探しで帰省する箱田監督に同行した。

 「監督自身のことが投影されているということで、箱田さんがどういうところで育ったかを知るために同行させていただきました」

 役作りに非常に熱心に取り組んだ理由は、「脚本を読んだときに、どこか自分に重なるところがあると感じたから」だ。

 「砂田は30歳。私も20代後半。いろいろなことに揺れ動く時期です。理想の自分に近づけているかといえば、実はそうではない。しかし、時間はどんどん過ぎていく。一体、どうすればいいのか」

 特に夏帆は、10代の頃のイメージからの脱却に悩んだ。小学生のときにスカウトされ、13歳でドラマ「ケータイ刑事 銭形零」に主演。19年には「天然コケッコー」で映画初主演も果たし、日本アカデミー賞の新人俳優賞などを獲得した。注目の若手女優だった。

 「自分は変わったのに、周りの方は、いつまでも10代のイメージのままで私を見る。そこに対して思うことはたくさんあった」

 そこで、20歳を過ぎてから仕事は自分で選ぶようになった。「もっといろんな人と、いろんな作品をやりたい。自分で行動しないと実現しない」と考えたからで、幸い周囲もそれを理解してくれた。

 「以来、積み重ねたことが、少しずつ実になりました。だから、今回の映画のような作品にも出合えたのだろう、と思っています」

 初主演ドラマ「ケータイ刑事」は、携帯電話を武器に事件を解決する少女刑事が主人公というユニークなシリーズものだった。16年放送だからiPhoneが日本に入ってくる4年前で、従来型の携帯電話機が全盛の時代だった。

 「ガラケーでしたね。いまや、スマートフォンの時代。やっぱり、時間はあっという間に流れていきますね。私も、つい最近デビューしたみたいな気持ちもあるのですが、もう16年です。悩みはつきないのですが、10代の頃より仕事が好き。だから、充実しているんだと思います」

 すでに次の主演映画「Red」(三島有紀子監督)の2月公開も決まっている。直木賞作家、島本理生(りお)が禁断の愛を描いた問題作を映像にした。夏帆は「今しかできない。今の自分だから演じられる役」を選び続ける。

 あらすじ 7歳の砂田は、茨城の田園風景の中で一人二役ごっこをする子供だった。30歳の砂田(夏帆)は漠然とした不満を抱えながら、CMディレクターとして東京で働いている。ひょんなことから友人の清浦(ウンギョン)が運転する車で、茨城の実家へ行くことに。家族は小さな問題を抱え、ふるさとは美しくもなかった。夕暮れにあたりが青く染まる中、東京に戻る車中、砂田は、あることに気づく。

 かほ 平成3年、東京都出身。「ケータイ刑事 銭形零」(16年)でドラマ初主演。「天然コケッコー」(19年、山下敦弘監督)で映画初主演。日本アカデミー賞、横浜映画祭などで新人賞を獲得。映画は「箱入り息子の恋」(25年、市井昌秀監督)、「海街(うみまち)diary」(27年、是枝裕和監督)など。ドラマは「監獄のお姫さま」(29年)、「いだてん~東京オリムピック噺~」(31年)など。

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