10月1日に消費税率が10%に引き上げられる。少子高齢化が進む中で年金や医療、介護の社会保障費が膨張しており、その財源を安定的に賄うための増税である。
税収が景気に左右されにくい消費税は、将来にわたって社会保障制度を維持していくための貴重な財源だ。消費税を社会保障に充てる目的税化しているのもこのためである。
安倍晋三首相はその意義と、増税の必要性を改めて国民に説明し、幅広い理解を得られるように努めてもらいたい。
≪上手にポイント活用を≫
5年半前に5%から8%に引き上げられた際には、増税前に大規模な駆け込み需要が生じた。その分、増税後の反動減が大きくなり個人消費の低迷が長引いた。
その反省を踏まえて、今回の増税では飲食料品の税率を据え置く軽減税率を導入するほか、キャッシュレス決済によるポイント還元などの対策を実施する。
これらの効果もあって、今回は一部の家電製品などを除き、大きな駆け込み需要は起きていないようだ。反動減に対する懸念は前回よりも小さいといえよう。
しかし、軽減税率の導入で店頭には複数の税率の商品が並ぶ。それにポイント還元も加わり、小売り現場では混乱が予想される。政府は増税後も消費者や事業者に対する制度の周知に努め、円滑な実施に全力を挙げてほしい。
欧州で生活必需品などに広く適用されている軽減税率は、消費者の痛税感を緩和するとともに、低所得者の税負担を軽くする制度である。今回は酒類を除く飲料や食料品、それに定期購読の新聞を軽減対象とした。消費の落ち込みを防ぐ役割も期待できる。
ただ、その線引きは外食が対象外となるだけに複雑だ。食料品を持ち帰る場合の税率は軽減税率が適用されて8%のままだが、店内の飲食コーナーで食べると、10%の標準税率となる。飲食コーナーがある店は、消費者が混乱しないように注意してほしい。
ファストフード業界では、店頭での混乱を避けるため、持ち帰りと店内飲食の料金を統一する動きもある。この場合、店内飲食は事実上の値下げとなるが、一部商品を値上げすることで調整を図るという。消費者にとって分かりやすい取り組みといえよう。
ポイント還元も課題が多い。クレジットカードやスマートフォン決済などキャッシュレスで買い物した場合、政府の補助で後日、一定のポイントが還元されて負担を軽減する仕組みだ。来年6月までの時限措置だが、一般の中小小売店では5%分、コンビニエンスストアなど大手企業傘下の中小店は2%分と還元率が異なる。
さらにポイント還元制度への参加を申請した中小店は全体の4分の1程度にとどまる見通しだ。これでは消費者は戸惑うばかりだろう。制度に参加する店舗は専用ポスターを掲示する。消費者も上手な利用を心がけたい。
≪景気変調に警戒怠るな≫
政府がポイント還元の導入を決めたのは、先進各国に比べて遅れているキャッシュレス決済を推進するためでもある。だが、結果的に混乱が深まるようでは元も子もない。増税に関する相談窓口を充実させるなど、国民の理解を促す取り組みも加速すべきである。
消費税率を2%引き上げると、家計負担は約5・7兆円増えるが、政府は、軽減税率や幼児教育の無償化などの対策があるため実質2兆円程度の負担増にとどまると試算している。前回よりは、増税が与える景気への影響は相対的に小さいという見立てだ。
しかし、税率が2ケタとなる心理的な負担は小さくない。米中貿易摩擦の激化などで世界経済の先行き不透明感も強まっている。増税による景気への影響を過小評価すべきではない。
もちろん、景気が失速する恐れがあれば、適切な財政・金融政策を果断に講じて、景気の腰折れを防がなければならない。
安倍首相は2度にわたり消費税10%への引き上げを延期した。7月の参院選前には与党内で3度目の延期論も台頭した。政権内の揺らぎを感じ取ったからこそ、事業者に「本当に増税は実施されるのか」という疑心暗鬼が広がり、増税準備が遅れたのは否めない。
だからなおのこと、首相には自ら先頭に立って増税の円滑な実施を確実に果たす責務がある。