虎番疾風録

突然の「長嶋監督解任」に衝撃 其の参75

虎番疾風録 其の参74

何事もなかったかのように第2次「中西政権」はスタートした。「留任」決定の翌10月17日、甲子園球場で広島とシーズン最終戦。3―6で敗れたナインたちは、グラウンドに横一列に並び1万5千人の観衆に頭を下げた。

「ファンを満足させるゲームをするのが私たちの責任。甘えてはいかん。強くならねば…」

中西監督の言葉を聞いても、なぜか白々しさだけが耳に残った。先輩たちからは「勉強になったやろ」と言われるし、人間不信になりそうだった。

21日の午前2時過ぎ、東西編集局に衝撃が走った。「長嶋監督、解任」の情報が飛び込んできたのである。もう、朝刊には間に合わない。だが、記者たちは未明の街へ一斉に取材に飛んだ。当時、巨人担当3年目だった清水満先輩は、その時の衝撃をこう回想した。

「そりゃあ驚いたさ。まさか、巨人が長嶋さんを切るとは思わなかったしね。もちろん、長嶋さんの首が危ない―という情報は7月の時点で入っていた。オールスター休みに、正力オーナーがOBたちを招待してゴルフコンペを開いた。そのときに…」

7月21日、東京・稲城市の東京よみうりカントリークラブで行われた〝巨人軍再建コンペ〟。この連載でも第46話で『巨人ピンチ、異例のOB招集』と題して取り上げた。長嶋野球に対する厳しいOBたちの批判の声。その中で川上が言った。

「いまの巨人に期待するものはない。今後は勝負にこだわるより、将来のために若い選手を育てるべきだ。そう、次は藤田、君が監督をやれ」

突然の指名に藤田は「いやぁ、ボクなんか…」と慌てたという。その一部始終をサンケイスポーツの専属評論家だった牧野が見ていた。もちろん長嶋を擁護する人たちはいた。正力オーナーと長谷川代表である。

「2人は長嶋さんを留任させる条件として、Aクラスと勝率5割―と言っていた。これさえクリアすればOBたちを説得できるとね」

巨人は10月20日、シーズン最終戦の広島戦を江川の力投で勝った。61勝60敗9分け、貯金「1」で3位を死守した。

「条件を達成。オーナーも代表もこれで行けるとふんでいた。ところが、夜になって事態が急転したんだ」

清水先輩の回想は続いた。(敬称略)

虎番疾風録 其の参76

会員限定記事会員サービス詳細