安倍晋三首相とトランプ米大統領が日米貿易協定で最終合意した。
日本は、約72億ドル(約7800億円)分の米国産農産物への関税を撤廃・削減する。一方で米国が日本車への追加関税を課さないことを確認するなど、日本として譲れない一線は守った形だ。
米中貿易摩擦で世界経済が混乱する中、日米まで対立が深刻化する事態にならなかったことは大きい。これを自由貿易の拡大につなげなければならない。
同時に指摘すべきは内容に不十分な点があることだ。日本車や同部品に対する米国の関税撤廃が先送りされたのは見過ごせない。対米輸出の主要品目を除外して本当に互恵的といえるのか。
自動車産業保護を訴えるトランプ政権が積極的に協議に応じる保証はない。そうだとしても求めるべきは強く求め続けるべきだ。日米の同盟関係をさらに強固にするためにも必須の作業である。
4月に協議が本格始動してからわずか半年で決着したのは、対中摩擦の悪影響が米経済に及びつつある中、交渉の成果を早急に誇示したかったトランプ氏と、対日要求が強まる前に妥結させたい日本の思惑が重なったためだ。
米国に対して日本が条件にしたのは、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の水準を超えないことだ。牛・豚肉や小麦、ワインは同水準となり、コメの無関税枠は設けなかった。日本政府がこの点を成果とするのはうなずける。
米国は農産物の対日輸出でTPP加盟国より不利を強いられてきた。トランプ氏は農家の不満を早急に拭いたかったのだろうが、苦境を招いたのはTPP離脱を決めた自らの判断の結果である。
日本がTPP並みの市場開放を行うなら、米国がTPPで認めていた2・5%の自動車関税撤廃なども時期を明示して約束すべきだった。そうならなかったのは、日本が米国の理不尽な対日圧力への対応を最優先にしたからだ。
安全保障を理由にちらつかせた日本車への追加関税は典型だ。輸入数量制限や、貿易と為替を結びつける条項も懸念された。この回避のため、農産物と同時に決めるべき米自動車市場の開放が置き去りにされた印象である。
協定発効後、サービス分野を含む新たな交渉をどうするかを協議するが、そこで国益をいかに追求できるかが改めて問われよう。