虎番疾風録

鶴のひと声、どんでん返し 其の参74

虎番疾風録 其の参73

小津社長と中西監督の2度目の話し合いが10月16日、甲子園球場で行われた。だが、プレスルームに集まった報道陣に前回(14日)のような興奮はなかった。すでに「留任」の情報が入っていたからだ。予想通り事態は急変していたのである。

信じられなかった。名古屋の知人宅で、大阪へ向かう新幹線の中で聞いた中西監督の言葉に嘘はなかったはず。まず小津社長がマイクをとった。

「不振の責任はすべて私がいたらなかったことで、監督の責任ではない。“このままでは監督の男がすたる。もう一度やって男になってほしい”と翻意をうながしたところ、分かってくれた」

男がすたる? 任侠(にんきょう)映画でもあるまいに、訳の分からない説明だった。記者たちの質問は中西監督に向けられた。

――なぜ、辞意を撤回したのか

「オーナーの好意が非常なものであり断り切れなかった。それに不振の責任はすべて社長にあることを認めたからだ」

――健康上に不安があったのでは

「まぁ、それは何というか…。もう、采配を振るうのに影響はない」

開いた口が塞がらなかった。どんでん返しの図式はこうだ。

中西監督の辞意表明で始まったこの騒動。小津社長は慰留する一方で新監督の人選も行っていた。中西の「辞意」が固いことや監督としての力量、資質に疑問を感じていたからだ。ところが、この動きに、中西と同郷(香川県)の田中オーナーが「彼一人の責任にするのはおかしい。中西を辞めさせるのなら君も辞めなさい」と〝待った〟をかけたのである。

留任を指示した田中オーナーはこう語った。

「本当によかった。今年はいくら努力しても彼自身のチーム作りができなかったのだから気の毒だった。彼とは同じ故郷の人間であり大変、親近感がある。彼が甲子園に初出場した頃からよく知っている。あれだけ傷ついたらみておれんじゃないか」

これが阪神の〝体質〟だった。「好きだとか、かわいそうだとか、まるでファン感覚。チームを強くすることと私的心情は別もの。タイガースは昔からこれや。本社首脳と選手、コーチが結びついて監督が浮いたり、ときにはフロントが何も聞かされていなかったり。歴史は繰り返される…やな」。平本先輩が嘆いた。(敬称略)

虎番疾風録 其の参75

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