朝晴れエッセー

奇跡・9月24日

「96歳の今日まで痛いところや病気もなくお元気にこられて。このまま食べられなくなれば一週間くらいで。幸せな大往生だと思ってください。最期の看取りの場所は病院か家かを考えてください」。お父ちゃんについて、医師から告げられました。

病院に行った妹から「入院はしない」とラインが届きました。私は「貸し布団手配するから、兄貴とお前と弟と4人でみんなで泊まろう」と返信しました。約50年ぶりに、92歳のお母ちゃんが待つ堺の実家で、家族6人で布団を敷き詰めて寝ました。

食欲もなくほぼ寝たきりのお父ちゃんは不思議そうに「お前、誰やったかいな?今日はなんか祭りがあるんか?」とうれしそうです。その夜は昔話に花が咲き、いつまでも語り尽くしました。翌朝お父ちゃんは目覚めると「なんでみんな居るんか?夢見てるんやろか」とつぶやいてます。

車椅子で散歩に出かけると、立ち上がって歩き始めました。だんだんと速くなり、腿上げまで始めました。高校教師で剣道の師範だったお父ちゃんに竹刀を手渡すと、背筋がピンとし、目が輝き、素振りを始めました。その夜はカレーをペロリと平らげ、お父ちゃんも昔話に参加してきます。奇跡が起こったのです。

その後、お父ちゃんは復活。私も時間を見つけて実家に帰省するようになりました。お父ちゃんの机を整理していると一枚のメモが出てきました。

「人は生きて来た様に死んで行く」

この年になってまた人生を教えてもらいました。

杉中 尚平 62 埼玉県上尾市