人手不足が深刻化する中、最低賃金のさらなる引き上げを求める声が上がっている。個人消費の拡大などが期待される一方、中小企業の負担増大を懸念する声もある。言論サイトを運営するアゴラ研究所所長の池田信夫氏と経済アナリストの中原圭介氏に課題などを聞いた。
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池田氏「先進国と同レベル必要」
--最低賃金の引き上げについてどう考えるか
「日本の賃金が先進国としては低いことを最初に指摘したのは国際通貨基金で、昨年の対日審査報告でも政府が労働市場に介入して賃金を引き上げることを提言している。もちろん、賃金は労働市場で自然に調整されていくのがベストだが、今の日本では賃金調整のメカニズムがうまく働いていない」
--中小企業への影響は?
「最低賃金ぎりぎりで労働者を雇っている中小企業にとって、引き上げの影響は大きいだろう。ただ、こうした中小企業の多くは深刻な人手不足で、それゆえに事業の継続が難しく、人手不足倒産も起きている。賃金を上げれば人手不足は解消するのに、生産性が低いので賃金が上げられないのだ。こうした中小企業の要望を受け、安倍政権は外国人労働者を受け入れることにしたが、その結果、低収益で低賃金の中小企業がそのまま事業を続けることになる。中小企業は地方のサービス業に多いが、経営を効率化するために、最低賃金を一時的に上げるのはありうる対策だ」
--韓国では自営業者が人件費の負担増に耐えかねて雇用者を減らした
「日本では6月の完全失業率は2・3%とほぼ完全雇用に近く、今は失業率の上昇を心配する状況ではない。日本は、労働者の質が世界4位と悪くないのに、賃金だけが異常に低いところにはりついている。最低賃金を上げるのは、普通の先進国と同じレベルに戻すためでもある。その場合、経営効率の悪い中小企業が淘汰(とうた)され、そこで働く人たちの雇用が一時的に失われることは避けられないが、長期的には経営効率の悪い企業は買収され、雇用も移行するだろう。当事者にとっては大変な問題ではあるが、労働者を低賃金でしか雇用できない企業を温存し続けることがいいことなのかは考える必要がある」