朝晴れエッセー

シルバーもつらいよ・9月22日

到着した電車に乗り込むと3席に仕切られたシルバーシートと呼ばれていた優先座席の端のひとつが空いていた。日頃はこの席に座ることを躊躇(ちゅうちょ)するのだが朝から左足の膝が妙に痛むので、周りの乗客に「私、シルバーです。すんまへん」というような断りの視線を投げかけて着座した。すると間髪を入れずに私よりもかなり年長とおぼしき白髪のおばあさんが眼前に立った。いつもなら席を譲るのだが…。つい横にはどんな人が座っているのかと見やったが、真ん中にはスポーツ新聞に見入る後ろ髪を束ねた野球帽の高齢男性、さらに、その向こうにはヒョウ柄衣装もあでやかな老婦人がスマートフォンをいじっている。どなたもシルバー世代だ。そこで姑息(こそく)にも私は疲れた様子を装いうつむいてしまった。

やがて電車は次の駅に到着。しかし白髪のおばあさんはしっかりと吊革をつかんで相変わらず私の前に立っている。何とも居心地が悪い。ここは席を譲るべきなのだ。そう、意を決し、おばあさんに「どうぞ」と席を促したが、おばあさんは私をちらっと見て「大丈夫ですさかいに」と上品な大阪弁と微笑みを返してくるばかり。私は何だか面はゆくなってしまった。

降車駅はくしくも同じで、足をひきずり、よたよた歩きの私を尻目におばあさんは颯爽(さっそう)と先を行く。その足どりは71歳のじいさんよりずっと軽快。「男はつらいよ」ならぬ「シルバーもつらいよ」を実感したある日の電車内だった。

細川 武志 71 兵庫県三田市