朝晴れエッセー

ピアノが嫁ぐ日・9月19日

ピンポーン。インターホンが鳴る。

両親が他界し、空き家になった実家に住むことになり、この夏いろんな物を処分してきた。古い家具たちも次々と大型ゴミの餌食になり、最後に残ったのがピアノだ。1ヶ月迷って業者に連絡し、引き取りは今日と決まった。

このピアノが我が家に来たのは半世紀以上も前のことだ。ピアノを欲しがった姉と私の為に父が中古のピアノを買ってくれたのだが、中古でもさぞや贅沢品だったことだろう。そんなピアノも、この何十年かは蓋を開けられることもなく、物置になっていた。

引き取り業者の査定で値段のつかなかった我が家の古いピアノは、昭和29年製造とわかり、くしくも私と同い年だった。

古いピアノは業者に引き取られ壊されると思っていたら、日本のピアノは性能が良いので整備して海外に運ばれると言う。60歳を過ぎて、海外で居場所を探さなければならない我が家のピアノの運命を申し訳なく思う。

走り去るトラックを見送りながら、同い年のピアノと、それを購入してくれた父の想いに頭を下げた。

急に言葉にならない寂しさに襲われた。しかし、古いピアノは工場で整備され、昔のようにきれいになって、海外にもらわれて行くのだ。そうだ、ピアノは新しい家に嫁ぐのだ。「どうか新しい家で、歓迎してもらえますように。子供たちとまた、すてきな音色を奏でることができますように」

両親の仏壇にそっと手を合わせた。

井上由季恵(64) 兵庫県宝塚市