口座維持には多額の費用 収益力低下で転嫁余儀なく

 三井住友信託銀行が口座維持手数料の検討に言及した背景には、低金利や人口減少で既存の収益モデルが維持できなくなってきた銀行業界の切迫感がある。口座の維持管理には多額の費用がかかり、欧米では口座残高に応じて手数料を設ける銀行も少なくない。これまでタダだった「お金を安全に管理する」業務に対価を求める動きは、日本でも広がる可能性がある。

 「貸出金利が一段と低下すれば、収益の下押し圧力に耐え切れない金融機関が預金に手数料を課し、預金金利を実質的にマイナス化することも考えられる」

 日本銀行の金融政策を決める政策委員会の委員である鈴木人司審議委員は8月末の講演でこう指摘した。

 日銀は平成28年に短期金利をマイナス0・1%に引き下げ、銀行が日銀に預ける当座預金の一部に手数料を課したが、短期金利が指標となる大手銀行の普通預金金利は約0%で止まっている。マイナスに下げれば利用者が銀行から離れタンス預金が増加しかねないからだ。

 ただ、貸出金利は市場金利に連動して下がるため、銀行の利益は減少する。特に、預金の貸し出し業務に頼ってきた地方銀行は、約6割が10年後に最終赤字に陥る見込みで、マイナス金利の拡大は死活問題だ。

 一方、国内では取引に使われない休眠口座が膨大な数に上り、りそな銀行は2年以上出入金のない残高1万円未満の口座から年1200円の手数料を取っている。各行が口座維持手数料を設ける場合、こうした利益を生まない個人口座の圧縮が焦点になりそうだ。

 日銀と同様にマイナス金利政策を採用したスイスでは金融大手クレディ・スイスが今月から、UBSが11月から個人口座に維持手数料を設定するなど、海外ではコストを回収する動きも進んでいる。(田辺裕晶)

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