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安倍首相の「信じて」にアル・カポネの名言でプーチン氏が反論

その理由として推察されるのは、ロシアの内政だ。フォーラム直後の8日には極東サハリン州で知事選が予定されており、プーチン政権に近いリマレンコ知事代行の苦戦が伝えられていた(結果は勝利)。同時にロシア国民の多くは、平和条約締結に伴う日本への領土引き渡しに反対している。プーチン氏には、低下傾向の続く自身や政権の支持率を浮揚させると同時にリマレンコ氏を勝利に導くためにも、国民の反発を招きかねない敏感な領土問題には触れずに、極東の明るい未来だけを述べる十分な動機があった。

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両者の温度差は、全体会合が司会者との質疑に移った段階でさらに際立った。

議題が平和条約締結交渉になると、プーチン氏は20世紀初頭の米国のギャング、アル・カポネが発したとされる「優しい言葉にピストルを添えれば、優しい言葉だけの場合よりもっと多くを得られる」との言葉を引用。同時に「平和条約締結問題は日本とロシアの関係だけにとどまらない。軍事や安全保障の問題がある。(日米安全保障条約に基づく)米国に対する日本の義務を考慮する必要がある」と述べ、日米安保条約の存在が平和条約交渉の障害になっているとの認識を示した。

ロシア側はこれまでも、仮に北方領土を一部でも日本にも返還した場合、米国が島に戦力を配備し、ロシアの安全保障が脅かされる-とのシナリオへの懸念を示唆してきた。「日本は米国の意向に逆らえないだろう」との認識を示したこともあった。

プーチン氏がアル・カポネの言葉を引用したのは、「国際社会は、安倍首相が述べたような優しい言葉だけを信じて相手と向かい合えるような甘いものではない」という意思表示だったとみて間違いない。

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全体会合で改めて示された平和条約に対するプーチン氏の消極的ともいえる姿勢には、伏線もあった。プーチン氏は日露首脳会談を控えた5日未明、北方領土・色丹(しこたん)島に建設された水産物加工場など極東の複数事業の操業開始式典にビデオ中継を通じてウラジオストクから参加し、祝辞を述べたのだ。