東京五輪の金メダルという譲れない夢。男子グレコローマンスタイル60キロ級の文田健一郎(ミキハウス)が、日本レスリング界で最も早くそのスタートラインに立った。イラン選手との準決勝をテクニカルフォール勝ちし、五輪代表第1号に決定。「長かった。腐らなくてよかった」と涙を流した。
五輪を強烈に意識した原点は2012年ロンドン五輪だ。「五輪の決勝のマットでウイニングランしたい」。男子フリー日本代表の米満達弘コーチが金メダルを取る瞬間を客席で見て、心をわしづかみにされた。
17年世界選手権を制し順調に夢への階段を上ってきたが、昨年5月、練習中に左膝靱帯を負傷。6月の全日本選抜選手権を棒に振り、1週間自宅でふさぎこんだ。そんなとき、励ましてくれたのがグレコ日本代表の松本慎吾強化委員長。五輪代表へのチャンスはまだあると説明し、「全部投げ捨てるのは早いぞ」と声をかけてくれた。
16リオ五輪銀で日体大の先輩に当たる太田忍(ALSOK)との熾烈な60キロ級代表争いを制して2年ぶりに戻ってきた世界選手権で、五輪代表を決めた。文田は改めて「忍先輩がいなければここまで来られなかった」と感謝する。そんなライバルからは「決勝まで行けば応援してやるよ」と伝えられたという。「表彰台の一番高いところからの景色をもう一度見たい」。五輪への切符をつかんだだけでは満足できない。見据えるのは世界の頂点だけだ。(岡野祐己)