8月23日に決着した第44期碁聖戦五番勝負は、羽根直樹九段(43)が初防衛を目指した許家元(きょ・かげん)碁聖(21)を3勝2敗で下した。
「久しぶりにタイトル戦で打つ機会にめぐりあえ、よかった」と振り返った羽根新碁聖が前回、七大タイトルを獲得したのが平成23年の第36期碁聖戦。そのとき碁聖を保持していた坂井秀至(ひでゆき)八段(46)が1日付で休場した。京都大医学部を卒業し、医師免許を持つ坂井八段は病院の勤務医(精神・神経科)に転身するという。
20代がタイトル戦線の中心にいる囲碁界。許前碁聖はじめ彼らの大半は、人工知能(AI)搭載ソフトを日ごろの研究に用いる。「まったく利用しないわけではないが、自分に合わないと感じた着手は参考にしない」と話す羽根に対し、同世代の坂井は2種類のソフトを駆使し連日、7~8時間を研究に当ててきた。
頂点に立ったことがある坂井は「ここ2、3年、自分の思うような内容の碁が打てなくなり、タイトル獲得が難しくなった」と、努力が結果に結びつかないもどかしさを休場の理由にあげた。8月の十段戦予選を勝ち抜き、20人の本戦入りを決めていたが「断腸の思いで、(9月1日で)区切りをつける」と決断した。
囲碁でいかんなく発揮してきた先を読む力を、今後は患者のために生かしていく。(伊藤洋一)