日曜に書く

見届けずに死ねるか 論説委員・中本哲也 

 昨年3月に死去した英国の物理学者、ホーキング博士は「人類の終焉(しゅうえん)を意味するかもしれない」と恐れた。

 筆者も怖い。

 愛情や憎しみ、喜び、悲しみなど、人間の感情は命をつなぐ営みに根ざしているのではないだろうか。だとしたら、AIが自己複製などの方法で命をつなぎはじめたとき、生命体のように感情が宿るかもしれない。

 人類にとっては脅威となる可能性はある。人類の終焉は見たくない。一方で、AIにどんな感情が宿るのかは知りたい。怖いもの見たさである。

 ◆次世代加速器

 物質のふるまいや宇宙の成り立ちを探求する物理学は、2つの方向に進化してきた。

 ひとつは、物質を限界まで細かくして、極小世界のふるまいを探る素粒子物理学。もう一つは、何億光年も離れた天体や光さえものみ込むブラックホールに関心を寄せ、極大世界の成り立ちに迫ろうとする宇宙物理学である。

 素粒子物理学者と宇宙物理学者は、最初は逆方向に歩き始め、互いの距離が広がった。極大世界の物理を記述する相対性理論の提唱者であるアインシュタインは、極小世界の理論である量子力学を、なかなか受け入れなかった。

 2013年、欧州合同原子核研究所(CERN)の巨大加速器でヒッグス粒子が発見されたことで、両者の距離は一気に縮まったとされる。

 ヒッグス粒子が物質に質量をもたらす仕組みは、素粒子論でも宇宙物理でも重要で本質的な問題であるからだ。

 次のターゲットは暗黒物質だろう。大きな重力で物質を引き寄せ、銀河や星をつくる正体不明の粒子である。

 約50カ国の物理学者らが、東北の北上山地への建設を目指す次世代加速器「国際リニアコライダー(ILC)」は、暗黒物質の正体に迫る実験施設だ。素粒子物理と宇宙物理の距離をさらに縮め、「新しい物理学」の扉を開く可能性がある。

 日本と欧米だけでなくロシア、中国などの参加も見込まれる広範な国際協力プロジェクトでもある。政府は誘致の判断を先送りにしてきた。国際社会から日本への期待と信頼を損なう「遅延行為」に等しい。

 30年後の日本が国際社会から必要とされ、尊敬される国であるために、政府は早急にILC誘致を表明すべきである。(なかもと てつや)

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