朝晴れエッセー

十七回忌に・9月15日

まもなく夫の十七回忌を迎える。同い年の彼と過ごした30余年という月日は、長くもあり短くもあった。団塊の世代に生まれ、常に競争を余儀なくされた私たち。

定年後の夢を語り、その準備も始めていた55歳で、夫は病に倒れた。しかし最後まで仕事に対する愛着が強く杖を突きながらも、私と長女の送迎で数日間、職場に出た。

予定より早く職場の駐車場に着いた朝、ジョギングする何人もの高齢者の姿を車窓から見て「いいなあ」と夫が一言。自分にはあんな日はやってこないと、限りある命を知っていた夫の胸中を思うと掛ける言葉がなかった。

彼が会えなかった孫は中3と小6になり、流れた月日の長さを思う。アルバムをめくり、「誰?」と夫を指さす孫。会ったことのないおじいちゃんの声が聞きたいと言う孫と、留守電に吹き込んだ夫の声を再生する。記憶は遙か過去にタイムスリップして、あたふたと過ぎていった若かりし日々が蘇る。

夫の死後、母と2人暮らしになったが、その母も4年前に92歳で他界した。3世代6人家族からたった1人残った。幸い67歳まで30余年間塾講師を続け、今は孫と勉強するひとときが楽しい。

娘や孫が弾かなくなったピアノを見て、2年前からピアノ教室へ通い始めた。音楽と同世代の仲間達との新しい出会いが、別世界の高揚感を与えてくれる。

「僕の分まで楽しめよ」と、夫の声がする。

細川 江美子 70 主婦 和歌山市