「奇跡」は起こるのか-。世界中の人々がこの一戦に固唾をのんだ。
10月2日(日本時間3日)、米ネバダ州ラスベガスで世界ボクシング評議会(WBC)の世界タイトルマッチが行われ、公認ヘビー級チャンピオン、ラリー・ホームズ(30)に38歳となった元同級チャンピオン、ムハマド・アリが挑戦したのである。
半年前、アリのカムバックが発表されたとき、誰も本気にしなかった。記者会見に出てきたアリはブクブクと太り、往年の面影すらない。マスコミはこぞって「お金目当ての無謀な試合」と酷評した。そのアリが老体にむち打ち、15キロの減量を果たし、見違えるばかりの体となってリングに上がったのだ。
もしかしたら、前人未到の3度目の王座返り咲きという「奇跡」が起こるかもしれない…と、床を踏み、口笛を吹いてアリをたたえたファンは一瞬、思ったかもしれない。だが、その〝夢〟は、両者がグローブを合わせた瞬間に消えていた。
あまりにも力が違い過ぎた。38歳の肉体は衰えを隠せない。アリがファイティングポーズをとれたのは8回まで。9、10回は立っているだけで、ゼンマイの切れた人形のようにホームズのパンチを浴び続けた。
チャンピオンのホームズも苦しんでいた。下積み時代には週125ドルの手当でアリのスパーリングトレーナーを務めたこともある。ホームズにとってアリは“特別な存在”だった。「オレは彼を傷つけるのが怖かった。オレがアリならこんな試合はしない」。世界中の人々がため息をついた。
日本のプロ野球は大詰めを迎えていた。セ・リーグは広島が首位を独走。一方、パ・リーグは10月3日終了時点で(1)日本ハム(2)近鉄(3)西武(4)ロッテがそれぞれ0・5ゲーム差で並ぶ大混戦。その中で西本近鉄は〝投壊〟現象に苦しんでいた。
3日のロッテ戦(藤井寺)では繰り出した5投手(橘-福井-久保-村田-太田幸)が打ち込まれ、9ホーマーを浴びて17失点。5-17で大敗していた。
「ピッチャーがなあ。いや、誰が行っても同じやったかな。残り6試合か。きょうの試合を落としたのは大きいな。7日の日本ハム戦まで一つも負けられん。投手の頭数が足りんわい」
「奇跡」は起こるのか…。西本監督は口を真一文字に結んだ。(敬称略)