安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領の今年3回目となる首脳会談が今月5日、ロシア極東ウラジオストクで行われた。両首脳の会談は通算27回を重ね、「厚い信頼関係ができている」(外務省幹部)といわれるが、肝心の北方領土問題は解決の兆しが見えない。ロシアの国家安全保障会議で「交渉を急がない」と機関決定されていたことも明らかとなり、プーチン氏に領土問題解決への意思があるのかも疑わしくなってきている。経済協力を進める安倍首相は、ロシアの真意をつかめているのか。
経済協力先行させるも…
安倍首相のウラジオストク訪問は、9月4~6日の日程で開かれた「第5回東方経済フォーラム」への出席が目的だった。開発の遅れている極東への投資促進を図るため、ロシアが主催している国際会議だ。
安倍首相は4年前から毎年参加し、日本企業を巻き込みながら進める対露経済協力の拡充をアピールしている。医療、エネルギー、都市整備など8項目の経済協力は今や、200を超えるプロジェクトとして稼働する。
「(日露)両国関係には、無限の可能性がある」
安倍首相は5日のフォーラム全体会合で演説し、経済協力の成果をビデオ映像で示しながら、今後も協力を続ける方針を強調した。
その上で、プーチン氏に「(われわれには)平和条約の締結という歴史的使命がある」と呼びかけ、「平和条約を結び、両国国民がもつ無限の可能性を一気に解き放とう」と訴えた。経済協力をてこに、平和条約交渉を進展させる狙いだ。
念頭にあったのは、昨年のフォーラム全体会合でのやりとりだろう。プーチン氏は前回、多くの聴衆を前に「一切の前提条件抜きに、年末までに平和条約を結ぼう」と安倍首相に突然持ちかけた。
「一切の前提条件抜き」とは、北方領土問題を先送りして、まず平和条約だけを結ぼうという考えだ。この条件では、平和条約締結後に歯舞(はぼまい)群島と色丹(しこたん)島を日本に引き渡すと明記した1956(昭和31)年の日ソ共同宣言も事実上棚上げされかねない。プーチン氏は同じ場で「日本側が共同宣言の履行を拒否した」とも述べ、宣言の原点に戻る必要があると強調した。
首相はその場では回答を控えたが、直後にプーチン氏と観戦した国際柔道大会の席で、「領土問題を解決して平和条約を締結する」との日本の立場を改めて伝えた。プーチン氏は「それはよくわかっている」と応じたという。