■長い流れからの発見
加古里子(かこ・さとし)さんは、生涯にわたって数多くの科学絵本の傑作を残しました。
『絵巻じたて ひろがるえほん かわ』(福音館書店、平成28年)は、昭和37年に刊行された名著『かわ』が蛇腹折りになり、全長7メートルの絵巻として生まれ変わったものです。
両面印刷で、表面には文章はありません。川を取り巻く風景が鮮明に描かれています。裏面はモノクロの風景の中に、1本の川の流れが水色に際立ちます。そして、その情景が易しく柔らかな文章で語られます。
この絵本を手にした子供たちは、まず、折りたたまれたページを伸ばし、その長さに驚きました。立ち上がって、床に広がった絵巻を追って見ていきました。山奥の源流から下流へ、そして広い海へとつながる川の流れと幅の変化を視覚と身体で感じていきました。海から源流へと逆方向にたどることで「はじまり」が見えます。それは、川の流れを俯瞰(ふかん)的に見たことで得た気づきや発見です。
次に、川の傍らに描かれた絵に注目し見入りました。絵本には、自然の形態とともに、ダムや集材所、貯木場、浄水場、田畑、河原の遊園地や、山奥の登山家、川の傍で自然とともに生きる人々の暮らしが細やかに丁寧に描かれています。子供たちは、今度は川に沿ってひざまずいて目を凝(こ)らし、川の横に広がる世界に関心を広げ、味わっていきました。
川は最後に広大な海へと広がります。初めに刊行された『かわ』にはなかった、海の場面が2ページ追加されて4ページ連続になったことで、水平線の丸さをより感じることができます。子供たちは、水平線の先に描かれた雲を見逃しませんでした。成長とともに、雲と川の関係や循環にも気づいていくでしょう。
工学博士・加古里子さんだからこそ、川の成り立ちや周辺の環境、地形が驚くほど緻密で正確に描けたこの絵本は、知識の深まりとともに、その味わいは広がっていくはずです。
(国立音楽大教授・同付属幼稚園長 林浩子)