朝晴れエッセー

消去できない電話帳・9月3日

戦後のベビーブームの昭和22年に生まれ、ことし亥年の年男で72歳になった。団塊世代の始まりの年齢だ。体育館をベニヤ板で間仕切りしたすし詰め教室への入学から、進学、就職、結婚、子や孫の誕生、高度成長期とバブルの崩壊を経て、現役からリタイア。老後2千万円不足問題のようなことは言われる前からの心配事なので、意識してアルバイトを続けてきた。

いつの間にか同窓会も、友人の逝去報告と黙祷(もくとう)から始まるようになっていた。周りには、いつも同じ年がたくさん居て競争のようにきたけれど、この先天国に行くのも団体さまになるのかなあ。

中には当然、忘れられない相手がある。うれしい時悲しい時、他界したあの人物なら何と言うだろう、どう共感するだろう。同じ思い出を語れる人が減っていく。未練がましいようだが、逝去後すぐにスマホの電話帳から消去するのは忍びない。消すどころか近ごろは、宛先のプロフィルに没年などを書き加え、備忘録にしてきた。

あるとき電話帳の整理中、発信ボタンに指が触れてしまったらしい。突然の鳴動で、もたつくうちに何とあの声が出たのだ。えっ、どうして…幻聴か、おれはボケたか。

だが現実だった。声の主は故人の息子。しどろもどろに聞いたのは、生前愛用の品を簡単には整理できなかったそうだ。亡くなったことを知らない人からの連絡を受けることもできるので、電話番号の「承継」手続きをしてそのまま解約せずに持ってきたという。

渡辺 祐司 72 アルバイト 千葉県八千代市