世界的指揮者、チョン・ミョンフンさん 音楽、人生、天皇陛下について語る

指揮者のチョン・ミョンフンさん=東京・西新宿(酒巻俊介撮影)
指揮者のチョン・ミョンフンさん=東京・西新宿(酒巻俊介撮影)

 アジアが誇る世界的な指揮者で、日本にも多くのファンを持つ東京フィルハーモニー交響楽団名誉音楽監督、チョン・ミョンフンさん(66)が本紙の単独インタビューに応じた。深遠で真摯(しんし)な音楽・人生哲学や聴衆と至高の瞬間を共有するために一つ一つのコンサートにかける情熱…。天皇陛下と室内楽の演奏で共演したこともあるマエストロはまた、ご即位に心からの祝意を表するとともに陛下への思いを語ってくれた。以下はその詳細である。(編集委員 関厚夫)

 私の任務は、作曲家が残した楽譜に生命を吹き込むことであり、生命を宿したまま聴衆にそれを届けるということです。ですので、常に生命に満ちあふれた演奏を行わなければならないと考えています。もちろんそのためには、たゆみのないハードワークが求められます。

聴衆とともに

 CDやレコードなどに採録された音源は、十人十色といえる音楽的な解釈を楽しむのなら最適でしょう。でも、私にとっては生演奏の機会ほど代え難いものはありません。そこでは、コンサートホールという有限の場で音楽家と聴衆が一体となるのです。CDやレコードは写真のようなものです。ある人を知りたいと思ったら、写真だけで判断するより、実際に会ってみたほうがはるかによいのではないでしょうか。

 また、少々言葉に迷うところがあるのですが、偉大な作品は音楽を超えた、ある種の精神世界を有しているように感じています。ベートーベンやブラームス、ブルックナーらの偉大な作品を演奏していると、大地と天界の間にいるかのような感覚に陥ることがあります。あるいは偉大な音楽作品はそうした言語や肉体を超えた精神世界への「窓」なのかもしれません。

 ここで誤解してもらいたくないのですが、私が音楽家として目指しているのは聴衆を感動させ、「おれについてこい」と促すことではありません。私にとって終着点は作品に生命を吹き込み、それを聴衆と分かち合うことなのです。できうる限り、至上の精神世界をともにしつつ…。

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