入荷は25メートルプール1杯分になります-。米インターネット通販大手アマゾン・コムの日本法人元広報本部長、小西みさをさんが、新刊『アマゾンで学んだ! 伝え方はストーリーが9割』(宝島社)で相手に突き刺さる広報術の極意を披露し、話題を呼んでいる。広報担当者はもちろん、商談などで自身の伝え方に課題を感じている人にも、うってつけの一冊といえそうだ。
小西さんは、アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏について「日本の本もよく読んでおり、コミュニケーションにたけた人物。彼には独自の伝え方のルールがあり、誰でも腑に落ちる話し方をする」と語る。
そのルールの一つが「同じことを何度も繰り返し伝える」ということ。特に企業理念は徹底しており、どんなコミュニケーションも『地球上で最もお客さまを大切にする…』という同じ文言から始まるという。
また、今ではおなじみの「アマゾンプライム」(定額サービス)だが、サービス開始時、その魅力を説明するのにジェフ氏は「決まった金額で何でも食べられる方がうれしいでしょ?」と例えたという。「具体的に話すことや、例え話を多用することもルールの一つ。彼はアマゾンの特徴をストーリーで伝えるのがとても上手な人だった」
小西さんは現在、自身が立ち上げたPRコンサルティング会社「AStory(エーストーリー)」の代表として、中小企業、地方企業、スタートアップ企業などの広報を支援している。日本の顧客との会話を通じて感じるのが、広報という役割への認知度の低さだ。「大企業でもずっと広報という人は多くはなく、中小企業では広報担当が置かれていないこともある」
また、よく聞くのが、「取材してもらえるようなネタがない」という企業側の悩みだという。小西さんは「まず、自社で持っている商品や社員、仕組みやシステムなど、社のあらゆる資産の棚卸しが足りない」と指摘。その上で「どの会社にも必ず商品や社員など経営資源に、他社や一般の人が驚くようなポイントを持っている。どうしてもないという場合は、アピールポイントを創っていくこともできる」と助言する。
小西さんもアマゾンの黎明期、英作家のJ・K・ローリングによる児童文学「ハリーポッター」の新作入荷数の多さを知り、それをアピールポイントにしようと考えた。実際、倉庫に入荷したハリーポッターを積みあげると25メートルプール大になり、すさまじいインパクトに。その様子がテレビでも放送され、認知度アップに大きく貢献した。
今やメディアも細分化し、誰でも情報発信できる時代。どの企業も情報管理や危機管理体制の一層の強化が求められている。広報の重要性は増すばかりだ。
小西さんは「多くの人や企業が、社会とコミュニケーションすることに興味を持つようになってほしい。この本をきっかけに、自身や自社の強みを棚卸しするきっかけになれば」と話している。(文化部 加藤聖子)