「太陽光バブル」の終焉 経産省、FIT見直し 野放図な拡大で利用者負担増

日照時間など気象条件に恵まれた九州では各地で大規模な太陽光発電所が稼働する
日照時間など気象条件に恵まれた九州では各地で大規模な太陽光発電所が稼働する

 九州で起きた「太陽光バブル」が終焉(しゅうえん)を迎える。経済産業省は、再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)の見直しを打ち出した。平成24年度に導入されたFITによって、再エネの野放図な拡大と、利用者負担の増大という当初から懸念されていたデメリットが、想定通りに起きた。導入から7年。軌道修正は遅きに失したといえる。

 経産省は今月5日、「国民負担額の増加」などを理由にFIT見直しの中間整理案をまとめ、有識者委員会から大筋で了承を得た。メガソーラー(大規模太陽光発電)や風力発電を買い取りから外す方針。

 FIT導入後、日照時間が長く、地価が比較的安い九州には、全国から業者が押し寄せ、われ先にとメガソーラー開発を進めた。

 何しろ「1キロワット時当たり42円」もの高価買い取りを、20年間も保証する制度設計だった。如才ない業者には、失敗のない投資話に映った。

 メガソーラーの建設ラッシュの影で、地域住民とのトラブルが多発した。

 鹿児島県霧島市牧園町高千穂では、メガソーラー建設に伴う造成工事で森林が伐採された。その結果、吹き下ろしの風が、隣接する住宅街を直撃するようになった。

 業者は防風フェンスを設置したが、平成29年4月に強風で倒壊した。住民女性は「土ぼこりに加えて、『ブーン』という機器からの重低音がひっきりなしに響く。魅力だった静かな環境は、もう戻ってこない」と嘆いた。

 北九州市小倉南区を中心に広がるカルスト台地「平尾台」でも、住民が発電所による景観や住環境の悪化を訴える。

 景観だけではない。昨年の西日本豪雨では、太陽光パネルが設置された斜面が崩れる事故が、各地で発生した。

 資源エネルギー庁が4月に開いた総合資源エネルギー調査会の小委員会の資料には、太陽光発電について「開発段階で地元との調整に課題が生じる事例が顕著」「地域との共生における課題が顕在化している」などの文言が並んだ。

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 FITによる買い取り費用は、電気利用者が負担する。

 例えば九州の家庭用の電気料金の単価は1キロワット時当たり22~24円だ。九州電力はメガソーラーの電気を42円で買い取り、22円で売る。その差額は利用者が電気料金に上乗せして支払う。

 太陽光バブルの結果、この「賦課金」が膨らんだ。令和元年度には、買い取り費用が全国で3兆6千億円、賦課金は2兆4千億円に達する見込みとなった。

 今年10月に予定される2%の消費税率引き上げで見込まれる税収の増加額は、約5兆6千億円だ。再エネ賦課金はその4割に達した。消費に与える影響は、増税と変わらない。

 賦課金負担の増大は、FIT先進国であるスペインやドイツでは、すでに発生していた。日本は先進事例に目をつぶって、FITを導入した。

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 太陽光や風力による発電量が多くなっても、既存の発電施設の代替にはならない。

 電気は、瞬間瞬間の需要量と供給量のバランスを取らなければ、大規模停電(ブラックアウト)につながる。

 太陽光や風力は、時間や気象条件で発電量が大きく変動する。大手電力会社は発電量の低下に備えて、火力などの発電所を維持しておく必要がある。

 またFIT導入後、再エネによる電気の「地産地消」が各地で話題となった。

 地産地消が進めば、大手電力会社の収入は減る。発電所や送配電網を維持するには、電気料金の値上げに踏み切るしかない。そうなれば販売量が減少し、収入はさらに落ち込む。

 電力会社を負の連鎖「デス・スパイラル」が襲う。

 ドイツ北西部のニーダーザクセン州では、再エネの自家消費の増加で、電力会社の顧客が減少した。その結果、電気利用者が電力会社に支払う送電線使用料(託送料、家庭用)が、1キロワット時当たり25・38ユーロセント(約30円)と、同国の他州の5倍超にもなった。

 日本エネルギー経済研究所の小笠原潤一研究理事は「デス・スパイラルによって、電力単価の上昇だけでなく、周波数の乱れが頻発する可能性がある。所得の差によって、電力の供給品質が変わる時代になりかねない」と警告した。

 九州は全国の「1割経済」といわれる。電力需要も全国の1割前後だ。ところが太陽光発電所は、全国の2割(発電量ベース)も稼働した。

 日照によって発電量が上下する「巨大発電所」が九州に誕生したといえる。

 この調整弁として九電の揚水発電所や火力発電所は、運転と停止を繰り返す。機器へのダメージは蓄積している。

 再エネを普及させることは国家的課題だが、生じうる問題への対策がなければ、再エネそのものが「負の遺物」となりかねない。(中村雅和)

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