北京春秋

天安門事件との不気味な符合

 香港の「逃亡犯条例」改正問題をめぐる抗議活動の現場には、米国旗や英国旗を掲げた若者がちらほらいる。デザイン会社勤務の男性(26)は「米軍が(香港に)来たら私が道案内する」と書かれたカードを手にしていた。こうした光景は一見、米欧諸国がデモを扇動しているとの中国当局の主張と一致する。

 ただ、男性が訴えた「香港社会の自由を守るためなら何でもやる。外国の軍隊だって歓迎だ」との言葉には、わらにもすがる悲鳴に似た響きがあった。

 別の現場では大学卒業生(22)が「新疆ウイグル自治区で行われているような洗脳教育を香港でやられたら問題だ」と語った。

 30年前の天安門事件で北京の学生たちを民主化運動に突き動かしたのが自由への希求だとすると、香港のデモの根底にあるのは自由を失う危機感だ。さらに香港では香港ナショナリズムともいうべきアイデンティティーの覚醒がある。「香港人頑張れ」のかけ声は熱を帯びている。

 共産党のお膝元で起きた天安門事件と比べて、桁違いの外国人の目が注がれる香港で中国当局が武力介入に踏み切るハードルは極めて高い。デモ隊内にも楽観論が広がる。だが中国メディアが「動乱」との言葉を使い始めたことは、30年前の状況と符合しており不気味だ。(西見由章)

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