河野太郎外相は8月初旬、日本の外相として32年ぶりに太平洋島嶼(とうしょ)国を訪問した。日本にとってエネルギー資源などのシーレーン(海上交通路)にある重要な地域であり、漁業資源を確保するための戦略拠点でもあるが、最近は中国がインフラ支援などを通じ、じわじわと影響力を強めている。日本は、法の支配や航行の自由を柱とする「自由で開かれたインド太平洋」の実現を進める観点からも、関与を強化する考えだ。
「自由で開かれたインド太平洋のビジョンのために、太平洋島嶼国が重要な役割を果たすことがますます明白になっている。日本は自由で開かれた地域であり続けることを確保するため、自らの役割を果たす決意だ」
河野氏は5日、フィジーで演説し、14カ国からなる太平洋島嶼国への日本の関与を強める考えを示した。具体策として、地域の安定・安全確保に向け海上保安庁から能力向上支援チームを派遣することや、国際空港の改良整備を通じたインフラ支援などを打ち出した。演説会場は、日本の支援で建設された南太平洋大学の講義ホール。日本の協力推進をアピールする上で象徴的な場所だった。
ただ、日本の外相が太平洋島嶼国を二国間外交の枠組みで訪問したのは、今世紀に入って初めてのことだ。前回は1987年、同じくフィジーで演説した中曽根康弘内閣の倉成正外相までさかのぼる。
河野氏は続けて、パラオ、ミクロネシア連邦、マーシャル諸島を訪問し、防災や気候変動といった課題で支援強化を打ち出した。
このミクロネシア3カ国はかつて日本の委任統治領で、今でも多くの日本語が現地の言葉の中に残っており、日本との歴史的、文化的関係は深い。しかし、3カ国への日本の外相訪問は今回が初めてだった。
歴史的な日本の外相訪問とあって、4カ国すべてで大統領が直々に応対するなど、「各国が国を挙げての大歓迎だった」(同行筋)という。河野氏が現地に直接足を運んだことは、それぞれの国と日本との結びつきを印象づける効果を生んだようだ。
太平洋島嶼国は日本にとって、シーレーンの確保だけでなく、漁業資源の供給地としても極めて重要度が高い。特に日本漁船によるかつお・まぐろの漁獲量の2割強は、ミクロネシア3カ国の排他的経済水域(EEZ)内で漁獲される。加えて、太平洋島嶼国は国連安全保障理事会改革をはじめ、国際社会での「重要な日本のサポーター」(外務省幹部)でもあり、日本の国益上、地域の安定的、持続的な発展を支える意義は小さくない。